Study: Animals' Guides in the Sky, Canceled Out by City Lights. New York Times. Intl. Weeky. August 15, 2021.

タイトルは、「夜空の星の光が動物が移動する際の道標に。しかし、都会の人工光により相殺される」

・夜行性の糞虫(餌にしたり卵を産みつけたりする糞の玉をころがす多くの甲虫の総称)は、地上に目標がない場合にも一直線上で糞を転がしながら移動するが知られている。今から10年前に、糞虫が天の川の光をたよりに糞を転がす行動をとっていることが検証された。

・研究者らは、多くの動物種が夜空の星の光を手がかりに移動し、逆に都会の人工的な光により方向を見失うおそれがあると仮説を立てた。糞虫の実験においてこの仮説が検証されたことは、地球上の他の動物にも適用できる可能性があることを示唆している。

・海洋性の哺乳類が、目印のない遠洋でどのようにして泳ぐ方向性を補正しながら遠距離移動を可能にしているのかについて研究された。ゼニガタアザラシを使った実験が行われた。1つ目の実験は、アザラシを外が見えない円筒状の水槽に泳がせ、夜空の海を泳ぐ擬似体験をさせた。結果、アザラシは金星、シリウス北極星の光が視界に入った時に、胸びれを動かし移動しようとしたことが観察された。

・2つ目の実験は、直径4.6 mのドーム型の水槽に兄弟アザラシを2頭入れ、天井にはプラネタリウムのように夜空の星々が6,000個光る装置を用意した。研究者は、レーザーポインターを使い、アザラシをおおいぬ座シリウスの方へ泳がせるようにした。アザラシが、シリウスの方向にある水槽のフチまで泳ぎ切ることができれば、報酬として魚を与えた。アザラシがシリウスの位置を学習したころに、レーザーポインターでの方向の指示をなしにして泳がせた。その結果、プラネタリウムの東西南北の位置を変えた場合でも、兄弟アザラシは2頭とも、シリウスの方向へ泳ぐことができるようになっていた。このことは、アザラシは移動のために、1等星の明るさを持つ星の光を目印として利用している可能性が高いことを示唆している。

・1960年代には、ルリノジコというホオジロ科の小鳥は、夜間に移動する習性があるのだが、ルリノジコをプラネタリウムに持ち込んだところ、北の方角を認識した行動をとることが観察されている。

・糞虫が動物の糞を発見してその場で丸めてから、転がし始める前にまず糞玉の上に登り、180度体を回転させる。まるで、天体を読み解くように。そして、一直線に糞を転がしていく。この行動は、仲間同士の衝突を最小限にする適応とも解釈できる。糞虫は行動前に記憶した天体のイメージを元に糞を転がすことも検証されている。

・しかし、こういった動物の行動も、年々増加する都会の人工照明の強度の強さにより干渉されていることが指摘されている。最新の研究報告によれば、甲虫の実験材料として用い、1方向からだけの人工光が夜空を干渉する実験区では、甲虫は、ほぼ一直線上に移動できたのに対して、多方向の光がランダムに入り混じって夜空を干渉する実験区では、甲虫は一番明るい光に向かって移動した。さらに、人工照明が夜空の星々の光を完全に相殺する(遮断する)照度の実験区では、甲虫はグルグルと円を描いて移動するのみであった。

・他の動物種も、同様の影響を受けている可能性がある。星の光は、一定の強度を持って地球に届けられてきた。たとえ、目印となる地形が変化したり、地球の磁場がずれたりした時にでも。しかし、実験レベルで確認された糞虫への人工光の影響は、地球規模では野鳥やアザラシ、夜行性の蛾類に対しては計り知れない大きな影響を及ぼしていることを示唆している。

 

キーワード

Dung Beetles 糞虫、フンコロガシ、食糞コガネムシ
コウチュウ目(鞘翅目)コガネムシ科、およびその近縁な科に属する昆虫のうち、おもに哺乳類の糞を餌とする(食糞)一群の昆虫を指す。食糞コガネムシとも呼ばれる。(Wikipedia

 たくさんの生きものが人間の目には見えないこの空の偏光パターンを利用している。オレゴン州立大学の昆虫学者、ケイティ・プルーディック氏は「特に昆虫は、このシグナルを利用できるように進化しています 。昆虫は方位を知るためだけでなく、異性を惹きつけるためにも利用します」と言う。2003年、「Nature」誌に掲載された論文により、ドクチョウ属のオスが玉虫色の羽で偏光を反射させ、メスを惹きつけていることが明らかになった。

 プルーディック氏は、他の昆虫のように道標を利用しない点でもフンコロガシは珍しいという。たとえば、夜は月を主な手がかりに移動する蛾も、日中はモノを道標に使う。しかし、フンコロガシは赤い納屋や木の幹があるところを左に曲がったりはしない。あくまでも空に注目する。(National Geographic