Books: 子どもと悪<子どもファンタジー>コレクションIV / 河合隼雄(河合俊雄編)(2013)

 

河合隼雄さんの著作物を初めて手にしたのはいつかは忘れましたが、読んでいると四角くなった頭のカドが少し丸くなるような気持ちになります。自分の10代の頃のことを振り返るつもりで読み始めた河合隼雄さんの子どもシリーズ。思えば、中学1年生・2年生の時期、自分も親に反抗したり、学校が嫌だった頃の時の方が記憶が鮮明で、誰と仲良くしていたか、誰とどこに行ったかなど、昨日のように思い出します。逆に、高校受験のために勉強に専念をせずにはいられなかった中学3年の時期の周りのクラスメートとの思い出はあまりなく、誰と何を話したかさえ思い出せません。きっと何も話していなかったんだと思います。しかし、その頃から、本や音楽が友達のようになっていたので、いつどんな本を読み、音楽CDに出会ったことはよく覚えています。自分の場合は、現実逃避程度の人格の表層に関わる程度の浅いレベルの反抗であったように思います。

しかし、本書で紹介されるクリエイティブなお仕事をされている(いた)著名人の10代の頃の話は、どの方も壮絶です。不登校、盗み、万引き、うそ、怠け、自傷行為、自殺未遂など、社会や大人からは、「やってはいけないこと」、すなわち、「悪」のレッテルが貼られることをやらかしてきたことを、河合氏に打ち明けています。

創造性は、想像によって支えられている。想像する力がないと創造はできない。

少年少女の場合、彼・彼女らの存在の中でうごめいているため、「悪」の形を取りやすく、本人には明確に意識されにくいと言われます。

秩序を破壊することが自分にとって利益でもないのに、あるいは損であるとわかっていながら、人間はやってしまうことがある。これは大人でも子どもでも同様である。このような破壊性、悪と名づけたい傾向を「人間の心」がもっていることは、認めざるをえないのではないか。

我々が生きている世界にはすでに何らかの秩序があります。その中で何か新たに創り出そうとすると、古いものを破壊する必要があります。したがって、どんな創造にも背後には破壊がつきまとうことになります。

科学技術と自然破壊を考えた場合にも、人類の進歩の観点からは科学技術は「善」ですが、自然の立場からすればそれは「悪」と考えられます。人間の本性のなかに、自然の流れに反するものがあるのかもしれません。いわゆる二項対立です。かといって、安易に「自然に還れ」と言ってしまうのは早計で、自然との関係性について熟考し、行動することが大切でしょう。

悪が一定の破壊の度合いをこえるときは、取り返しがつかないことを、人間は知っていなくてはならない。そして、そのような可能性を秘めた根本悪は、思いがけないときに、ひょっと顔を出すのだ。そして、後から考えると何とも弁解のしようがない状態で、人間はそれに動かされてしまう。このことをよく心得ていると、大切なときに踏み止まることができる。

それを可能にするためには、やはり、子どものときに何らかの深い根源悪を体験し、その怖さを知り、二度とはやらないと決心を固くすることが必要である。

学校や社会では、いじめ、援助交際、学級崩壊、自殺といった問題が深刻です。悪事を行う際の子どもの状況は、まさに鬼は憑依したかのような一瞬ゾッとするほどの顔つきです。しかし、大人が考える悪ということを子どもがしたとき、その悪は大人の常識を超える高貴さを潜在させていることもあります。子どもたちが秩序を崩壊させようとする悪に突き動かされそうなっているとき、その都度、反応する大人側にも、何らかの創造性が求められているとも言えます。

子どもの「悪」について良く理解することは必要であるが、それは決して甘くなることを意味していない。理解することと厳しくすることとは両立し難いようだが、理解を深めれば深めるほど、厳しさの必要が認識されてくるので、厳しさも筋金入りになってくるのではないだろうか。理解に裏付けられていない厳しさは、もろいものである。

以下、あくまで自論です。悪事を行う際の少年少女に鬼が憑依するという点について、人気アニメ鬼滅の刃を思い出します。残酷なシーンが多々あり、綺麗で小弱い女性に鬼が憑依する場面があるのにどうして人気があるのだろうと思っていました。本書を読んで思ったのが、少年少女たちが、何か根源的な悪の蠢きを感じながら学校生活を送っているからかもしれません。アニメ、漫画、音楽、小説、映画の物語をバーチャルで体験することで、悪を実生活に表出させず、自分の中で昇華、浄化させているのかもしれません。なかなか理性では捉えられないものだからこそかもしれません。

鬼と化した妹を人間に戻すために旅に出て、様々な人物と出会い、技を修得していく物語は、まさに自身の根源悪と向き合う旅を象徴しているのかもしれません。