Study:  Shards From Mercury Might Be On Earth. New York Times. Intl. Weekly June 5, 2022

タイトルは、「水星の破片が地球上で発見される可能性がある」。

・オーブライト(aubrites)と呼ばれる隕石が、水星起源である仮説が、科学者らによって提唱された。

・水星は太陽系で最も太陽に近い惑星であるが、地球に匹敵する厚いマントルを持たない。その理由として、いくつかの仮説があるが、一つには、以前の水星は現在の2倍の大きさであったが、 数十億年前、大きな物体がプロトマーキュリー(proto-mercury)、またはスーパーマーキュリー(super Mercury)に衝突した可能性があり、それによりマントルなどの表層が引き剥がされ、現在観察されている残骸(水星)の姿となったという説明される。しかし、それを支持する証拠やデータはまだない。

・今年3月にアメリカのテキサス州で開かれた学術会議で、フランスのロレーヌ大学のカミーユカルティエ博士と同僚らは、プロト水星の破片が博物館や他の隕石コレクションに潜んでいる可能性があり、それらを再調査することで原始水星のミステリーを解明するのに役立つ可能性があると述べた。

・隕石学会によれば、7万個近い隕石が世界中の博物館で所蔵されている。ほとんどが、小惑星(主に火星・木星の軌道間に散在する)のもので、500個程度が月由来、300個程度が火星由来と言われる。しかし、水星と金星由来の隕石として確証のあるものは0である。

・オーブライトと呼ばれる隕石は80個あり、見た目は白っぽい色でわずかに金属を含み、酸化物の割合も少ない。マグマ中で形成された岩と類似している。このことから、原始の太陽系の水星上での環境で形成されたと考えることも可能である。

・しかし、これに異を唱える研究者もおり、ニサ族のE型小惑星など他の惑星由来の可能性を棄却できるだけのデータがないとする。これに対して、カルティエ博士は、水星から剥離した表面の岩石が、宇宙に投げ出され、太陽風によって押し流される過程で断片化し、やがてE型小惑星の一部となったと考えることもできると反論している。

・オーブライトの物性解析では、ニッケルとコバルトのレベルが低いことが示されており、これはプロト水星の構成成分として推測されるものと一致している。さらに、2011年から2015年に水星を調査したNASAメッセンジャー探査機の観測データは、水星とオーブライトの組成の類似性が確認されたことも、この仮説を支持している。このことをより、カルティエ博士は、オーブライトはプロト水星を覆っていたマントルの表面近くを構成する岩石であったと考えている。

・オーブライト水星起源仮説は、BepiColombo欧州と日本の共同ミッションチームにより大気圏外で実験が行われる予定である。無人探査機が現在、水星の軌道に向けて航行中であり、2025年には、水星表面のニッケルの存在量を調査する。カルティエ博士は、高圧力条件下で、オーブライトを溶かす実験も計画中である。

 

キーワード
aubrites オーブライト
1836年にフランスのニヨンに落下した小さなエイコンドライト隕石Aubresに由来する隕石の分類である。主に輝石、頑火輝石(エンスタタイト)で構成され、エンスタタイト・エイコンドライトと呼ばれることもある。火成作用を受けている点で、原始的なエンスタタイト・エイコンドライトとは区別され、小惑星で形成されたことを示す。(Wikipedia

asteroid belt E型小惑星
小惑星の表面反射スペクトルが、赤みがかっていて比較的、平坦であることを特徴とする小惑星である。アルベドは0.3以上と比較的高い。SMASS分類ではXe-型に分類される。E型小惑星の起源はより大きい母天体が破壊され、融解や再結晶が行われた母天体のコアの部分が小惑星となっているものであると考えられている。(Wikipedia

solar wind 太陽風
太陽から吹き出す極めて高温で電離した粒子(プラズマ)のことである。太陽系には、系外からの銀河宇宙放射線流入しているが、その量は、太陽風を伴う太陽活動と相関があり、太陽活動極大期に銀河宇宙線量は最小になり、太陽活動極小期に銀河宇宙線量は最大になる。これは太陽風が、太陽系外から流入する銀河宇宙線をブロックするためと考えられている。銀河宇宙線のエネルギーは強大で、ほぼ真空の宇宙空間を飛翔する岩石結晶には、銀河宇宙線による細かい傷が見られる。太陽風によって、銀河宇宙線の地球に対する影響が抑えられている部分がある。(Wikipedia

asteroid belt 小惑星帯
太陽系の中で、火星の公転軌道と木星の公転軌道との間に存在する、小惑星の公転軌道が集中している領域を指す言葉である。(Wikipedia

BepiCombo
JAXAESA欧州宇宙機関)が共同で計画する水星探査計画「BepiColombo (ベピコロンボ)」は、表面・内部の観測を行う水星表面探査機(MPO: Mercury Planetary Orbiter)と磁場・磁気圏の観測を目的とする水星磁気圏探査機(MMO: Mercury Magnetospheric Orbiter)からなり、JAXAはMMOの開発・運用を担当する。(JAXA