甥と昆虫採集を何日かに分けて行いました。ナミアゲハ、クロアゲハ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ、オオカマキリ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、クマゼミ、ショウリョウバッタ、ウスバキトンボ、ギンヤンマなどコモンな種から、ウチワヤンマ、オオシオカラトンボ、ムラサキシジミあたりは、ややレアでしょうか。
レアな体験といえば、アブラゼミのメスを捕獲したときに、胴体に2つほど白い綿みたいな物体がくっついていました。おそらく、セミヤドリガの幼虫だと思われます。セミヤドリガは、99%以上がヒグラシに寄生すると言われますが、今回はアブラゼミに二個体でした。
どうやってセミに寄生するかですが、セミが樹木の幹などに止まる際に、翅の振動などを感じてガの幼虫(ウジ)が孵化し、留まっている間に忍び寄り、取り付くようです。セミヤドリガを人工的に孵化させるには、人間が鼻息をかければいいと聞いたことがあります。
純白の蝋状物質でできた綿毛で背面が被われていたので、5齢幼虫の蛹化前の成長ステージだったと思います。寄生されたセミが死んだり産卵ができなくなったりすることはないと言われます。しかし盗られた栄養分が損害になるほか、セミにとってはセミヤドリガの幼虫は相対的にかなり大きいため、多くの幼虫の寄生を受けて重くなったセミは飛翔速度などがやや遅くなるかも知れません。セミの天敵である野鳥は、もしかすれば、白い物体のついたセミを避けているかも知れません。もしそうなら、セミの生存には捕食圧が下がるのでメリットになっているかもですが、飛翔の制限とのバランスはどうでしょうか。
昆虫に夢中の甥ですらも、この現象にはややひいた感じでした。そうですよね。「寄生」というのは、何か「えげつないもの」を見てしまった気がしますよね。
かのダーウィンですら、捕食寄生者の生態にドン引きしました。ダーウィンは、寄生バチであるヒメバチの生存戦略を観察し、創造論への次のような疑問を、植物学者エイサ・グレイに手紙で伝えています。
「生きたイモムシの体内で育てるという明確な意図をもつヒメバチの慈悲深い全能の神が故意につい食ったとか、猫は鼠をもてあそぶものだとか、私にはどうしても信じる気にはなりません」
ただし、生態系のバランスから言うと、寄生バチのような天敵がいないと、特定の種の個体数が爆発的に増加してしまい、食草などの餌資源が枯渇してしまう恐れがあります。その意味では、寄生者と言う天敵ですら、慈悲深い神の御業とも言えますね。
インド神話の「マハーバーラタ」では、大地の負担を軽減するために、神々が大地に降臨し、増えすぎた人間を淘汰したと言いますから。