生と死の接点 / 河合隼雄

人間の自我=意識は,それなりの体系をもち,ひとつのまとまった存在でなければならない.それが体系や統合性を保つためには,それと相いれないものを排除する傾向を持っている.しかしながら,人間の自我の不思議な点は,それは自我防衛によって異質なものを排除し,まとまりを保持しようとする傾向と,むしろ異質なものを取りこんで,崩壊の危機に陥りながらも,自我を拡大し再統合をなそうとする傾向と,どちらももっているところにある.後者のはたらきは,もちろん,自我のはたらきのみに帰するべきではなく,むしろ,その根本の動因は人間の無意識内にあるというべきであろう.後者のような心のはたらきは,心の全体性へと向うはたらきということができる.
河合隼雄 元型としての老若男女「生と死の接点」岩波書店より抜粋

★人間の集団の中で,”合わない人”に「バツ印」を付けるという行為は,普段生活していてもよく目にしたり,体験したりすることだと思います.集団としてコンセンサスをとるためには,色々な人の意見を聞くことから始まりますが,集団として一つの意見を示さなければならない時,どうしても合わない意見や人って出てきます.営利意識の高い集団であれば,合わない人にバツ印を付けることも頻繁に出てくると思います.
自分自身は,今までの態度や行動として出さなかったものの,心の中で他人にバツ印をつけるという行為は,今までに何度かあります.
上記の河合氏の文脈からも読み取れるように,「自我防衛による異質なものの排除」は,人間の心理としては自然な行為のようです.自然なことといっても,他人を排除するということに罪悪感を感じ,そういう自分を嫌悪してしまって二重に苦しむこともあるかもしれません.こういった罪悪感を抱えるのは楽ではありませんし,心の健康に良くないと思われます.
これはある人から教わったのですが,こういった気持ちを楽にするためには,「他人に対して嫉妬,憎悪,嫌悪を持ったこと自体を自分で受け入れる,自分の感情を受け止める,そういった感情を自覚する」だけでも,大きく違ってくるとのことです.そう考えると,人間ってみんな不安なんだなぁって思えてきます.自分を保つことって非常に微妙なラインにあるんだなって思えてきます.
上記の河合氏が示す二つ目の心の作用,すなわち,「異質なものを取りこんで,崩壊の危機に陥りながらも,自我を拡大し再統合をなそうとする」ことに関しては,僕にとっては新鮮でした.これからもう少し詳しく調べてみましょう.