僕の陽気な朝 / イヴァン・クリーマ

僕の陽気な朝 (文学の冒険シリーズ)
★イヴァン・クリーマは,チェコ出身の作家.2002年,フランツ・カフカ賞受賞.ミラン・クンデラにより「世界で最も多く翻訳されたチェコの作家」と評されました.
第二次世界大戦が終わった後も,チェコではクーデターや政権の交代などにより不安定な状況は続きました.1960年には「社会主義共和国」に改名しましたが,スターリン的抑圧に対する不満が爆発してノヴォトニー政権は倒されました.ドプチェク政権が誕生し「プラハの春」と呼ばれる自由化・民主化路線が布かれました.
そんな中,イヴァン・クリーマは,自由化に向かう反体制文学のリーダー格になり,パヴェル・コホウト、ミラン・クンデラら作家たちと共産党批判を行っていました.1969年秋からアメリカのミシガン大学客員教授として講義するための出国しました.
しかし,その直後にソ連のテコ入れによる「正常化」路線徹底強化のあおりで,国境が封鎖.1969年末までに,海外在住のチェコ人はチェコ国籍を放棄するか,帰国するかの選択を迫られました.
イヴァン・クリーマは,反体制派と目され,言論弾圧により,彼の作品は出版禁止.作品発表と専門的職業の場からも追放され,病院雑役などの労働に日を送る.しかし海外で出版される作品の印税により生活をしていました.(Wikipedia参照)
本書は,ほぼ作家のそういった日常を描いたものと言えます.7編の小説から成っていて,月曜日の朝〜日曜日の朝と目次がふられています.月曜から読んでいくと,作家の意見がストレートに描かれているのは,一番最後の日曜日だと感じました.キリスト教福音派である主人公(著者)は朝から教会に出かけます.不況なチェコの田舎町で過ごす人たちとコミュニケーションをとり,冷静に庶民の心のうちを読み取っていきます.小説中で,ある少年が洪水で水浸しになった教会の向こうの野原を指差して,白い服を着て,頭には茨の冠をつけた人影が水面を歩いていると叫び出すシーンがあります.主人公には,見えませんでしたが,そのことにより”物を所有する願望”と”超人間的な何か”との間に永遠に繰り返される循環運動(葛藤)について思索が始まります.

僕は遠い昔の預言者的白痴性を身近に感じる.たとえ,それが嘲笑と,侮蔑と,永遠にくり返される無理解に出会うことを運命づけられていたとしても,僕は預言者的白痴性の側にくみするだろう.
なぜなら「物を所有し,自己の犠牲にするかわりに世界を犠牲にしようとする狂気的願望は,究極において人間の生命の根源から断ち切ってしまう」という,先見性のない連中がいまごろになってやっと理解しはじめたことを,その予言者的白痴の人たちはとっくの昔に理解していたからだ.(イヴァン・クリーマ『僕の陽気な朝』)