道元 -自己・時間・世界はどのように成立するのか / 頼住 光子

道元―自己・時間・世界はどのように成立するのか (シリーズ・哲学のエッセンス)
曹洞宗の開祖,道元の思想を主著「正法眼蔵」を中心にわかりやすく解説した入門書です.
先日,茂木健一郎さんと曹洞宗の僧侶,南直哉さんの対談のmp3を聴いて以来,南直哉さんの著作を読んだり,般若心経を読んだりしていました.そこで仏教の基本概念や思想について少し知識をつけたいと感じ本書を手にしてみました.
 本書では,大乗仏教の基本教説であり道元思想の中心軸でもある「無自性-空」の立場について説明がなされています.西洋の哲学では「自性(=実体)」が論理構造の核に位置する中心概念であるのに対して,仏教では,自性(=実体)が否定され,すべては生滅変化する無常なものであり,永遠不滅の本体はないと考えられています.

死において個々人は意味も役割も失い,自己のアイデンティティーを喪失する.このことを直接的に受け止めるならば,現実①は存立を脅かされる.それ故に,現実①すなわち俗世は,たとえば,血統の無窮性や,国体の無窮性など,さまざまな神話によって,個々人は死によって無に帰するのではなくて,むしろ,個としての存在性を失うことによって永遠なるものに吸収され,それにより個々の死を超えて永遠性を帯びると主張する.

現実①というのは,仏道において「発心」(仏道へ入る決意)する以前の俗世間を意味します.ここでの認識の基本図式は主客対立の二元論です.禅宗では,一人が修行しさとることによって,全世界がさとるということが強調されています.修行を通じて,要素還元主義的,主客対立的な考え方は,徐々に転換され,「空そのもの」と出会うと言われます.
解脱によって体得された「空そのもの」は,言語によってもう一度世界が立ち現れる(現成)とされます.ここで立ち現れた世界(現実②)は,空に立脚した縁起の世界です.