生物と無生物のあいだ / 福岡伸一 (2007年)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
★著者が海外で研究者として経験した栄光と苦悩を織り交ぜながら、分子生物学の発展と基本的なノウハウが述べられています。そして、本書のタイトルでもある非常に根本的な問い、生物と無生物の境界線、すなわち「生物とは何か?」に対して著者なりの解答が示されています。
本書で挙げられているトポロジー(物事を立体的に考えるセンス)という感覚は、細胞生物学の分野だけでなく、ものごとを考えるにあたって非常に大切な思考の様式であると思います。自分もDNAの抽出からPCR塩基配列の解読を行っていると、一つ一つのサンプルから得られるデータは、非常に”静的な”ものに見えてきます。しかし、目の前のデータにおぼれることなく、それは、生命(個体、個体群)という動的平衡が、不可逆な時間の流れに沿って、様々な環境に対して適応を繰り返した結果であるということを念頭に捉えていく必要があると感じます。
原子の大きさに対して、なぜ生物はこんなに大きいのかという問いに対して、シュレディンガーが指摘した、生命現象に参加する粒子の数が増えれば増えるほど、平均的な振る舞いから外れる粒子の寄与、つまり誤差率が低下するということには、驚きました。さらに、著者が主張していること、特に生物の形態の特徴のすべてに自然淘汰の結果、ランダムな変異が選抜されたと考えることに、大いなる危惧を感じるという記述からは、色々と考えさせられます。ハエの幼虫の分化の過程には、ビコイドの濃度勾配によって、グラディエーションが形成されている話などを聞くと、例えば、昆虫類の擬態や、すみわけなどの研究も、このような視点から見てみると、また違ったものが見えてくるのかと思いました。


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