海辺のカフカ / 村上春樹(2002年)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)


海辺のカフカ (下) (新潮文庫)


村上春樹の小説に出てくる人物は、みんなどこか現実離れしたところがあります。地に足がついていない感じでふわふわしています。といっても、彼らがみんなヒッピーだというわけでもなく、学生時代のモラトリアム期を満喫しているハッピーな様子でもありません。何かに引っ張られているような、あるいは何か得体の知れないものを抱えているような様子です。
彼らは特別に存在といえばそうなのですが、われわれ自分の存在を「普通」と思っていること自体がもしかすれば、特別なのかもしれません。19世紀後半から20世紀前半のかけて出てきたフロイトユングのような学者が追求した無意識や深層心理と呼ばれる心の領域は誰しもが持ち合わせていると考えると、われわれが意識している部分は、氷山の一角に過ぎません。
非現実的な現象(超常現象)というと、人が空を飛ぶとか、水の上を歩くとかを、死んだ人間が生き返るとか、を思い浮かべるかもしれませんが、それは、夢の中ではありえることです。夢が非−現実で、覚醒時の出来事が現実と思うのが普通ですが、人間の無意識や深層心理の領域では、その境目はないのかもしれません。
では、善悪はどうでしょうか。向こうの世界でh、善悪の判断がない様子です。こちら側では善悪は多少人によって違っていても線引きが行われるはずです。例えば、芸術と呼ばれるものはそうかもしれません。とてつもないエネルギーを向こう側からこっちに引き込んできて具象化する。それは、人の心を打つ素晴らしいもの(善)であると同時に、芸術家は人間というレベルでは多くのものを損なってしまいます。