ロシア 闇と魂の国家 / 亀山郁夫+佐藤 優 (2008年)

ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)


★目次
魂のロシア  亀山郁夫
ロシアの闇  佐藤 優
第一章 スターリンの復活
第二章 ロシアは大審問官を欲する
第三章 霊と魂の回復


★「カラマーゾフの兄弟」の「カラ」は「黒」から来た言葉です。これは大地の土色であり、さらには救済のイメージとも見て取れると亀山氏は述べています。ロシア人にとっては、魂の源泉としての大地、日本人やイギリス人なら、海も大地もイメージできるのかもしれません。特に、ドイツやロシアは大地に特化してしまう傾向があり、魂の源泉を一つに特化する民族の方が論理構成としては分かりやすく、ロシアでの面白さはその特化から純粋化できること、極端な思考実験ができるというところにあるとも分析されています。すなわちロシア人の心理感覚に、「中庸」はないと語られています。


古代ギリシアでは、「魂」は個人に備わっている個性であって一人の人間に複数備わっているけれど、「霊」は一つしかなく、二つは明確に分けられているそうです。ロシア人にとっても同様で、「魂」が「個性」とすれば、「霊性」は「命の原理」、空気のようなものと言われます。


ロシアが強大化している裏には、ロシア人による自らの魂の弱りへの気づきがあり、その奥には軍事大国としての「魂」、文化の「魂」、宗教的な「魂」などへの復権への自覚と努力があると説明されています。


ロシアの闇とは、「神がなければ、すべては許される」という思想を、そのままストレートに鵜呑みにする、すなわちスメルジャコフなのかもしれないと亀山氏は指摘しています。これに対して佐藤氏は、スメルジャコフがロシアの闇であるという点については同意するが、その起源はキリスト教の異端にあるのではなく、異教に起源を持つ問題だと述べています。これはロシアだけではなく、西欧のカトリックプロテスタント文化圏にも存在する問題であると。


佐藤氏は、日本人がロシアから学ばなければならないのは、「魂」の回復だと言及しています。すなわち、個々の「魂」によって世界を構成し、自分の魂に映る世界像についてきちんと話す、同時に、ほかの人が話す世界像について最後まで聞くといったことがなされていないと指摘しています。さらに、日本には大審問官型の政治家が必要だと主張しています。ときには暴力を行使してでも、人類が生き残ることができるようにするため、自らの優しさを殺すことができるような人間が本物の政治家であると。


また、時間概念の中の通常の刻み込む時間を指す「クロノス」ではなく、英語でタイミングと訳す「カイロス」の大切さを再認識すれば、今の日本の閉塞状況を打ち破る何かが見えてくるのかもしれないと。ドストエフスキーには時間を質的に変容させる類まれな力があるのかもしれません。