★目次
序 章 <ひとそれぞれの時代のカント>
第1章 近代哲学の「考える力」
第2章 理性の限界―「純粋理性批判」のアンチノミー
第3章 「わたし」の中の普遍性―感性・悟性・理性
第4章 善と美の根拠を探る―「実践理性批判」と「判断力批判」
第5章 カントから考える―ヘーゲル、フッサール、ハイデガー、アーレント
終 章 世界を信じるために
参考文献
あとがき
★カントの「アンチノミー」という方法に注目し、その哲学が平易に解説されています。デカルトからアーレントまでの「主観」理解についても、カントの哲学と照らし合わせながら説明がなされています。はじめから最後まで筋が通っており、非常に集中して読めました。特に最近、倫理というものについてもう少し理解を深めたいと思っていたので、カント、プラトン、ニーチェの倫理観の比較もわかりやすく、それらの主著へのステップを踏めたと感じています。さらには、アーレントのカントの読み解きの重要性も強調されており、そういう意味では、今の世相もしっかり反映しているかと思いました。
<ひとそれぞれ>、そういう気風が日常に漂っているのはよく感じます。おそらく現代特有の風潮でしょう。一方で、単一のモノサシで測りとられうるような社会は、アーレントが危惧する全体主義的な社会ということになります。なにが善で何が善でないかは、<ひとそれぞれ>の主観からはじまるのですが、われわれは意見を交わすことで、新しい<普遍的なもの>を手に入れることも可能だと考えられます。
ベルクソンはカントの哲学、特に時間の空間化に対して批判を述べましたが、カント哲学はアーレントの観点からみると、ある種「開いたもの」に見えてきそうな気がしています。一方で、ベルクソンの『時間と自由』の時点でみてみると、多少閉鎖的にも感じられます。といってもベルクソンの晩年の『道徳と宗教の二源泉』も、カントの『判断力批判』も、じんわりと人間味が染み出てきていることを感じさせるもので、やはり哲学者と言えども、年齢を経ることの影響はあるのかとも思いました。