ナチス・ドイツの動物保護法と自然保護法 / 西村 貴裕(2006)

ナチスドイツは環境保護を行っていた」と、たまに聞くのですが、それについて詳しく知る事ができる論文があったので参考になればと思い紹介します。驚いたのは、どの法律も当時の水準からすればかなり進歩的な内容であったということです。


西村 貴裕(2006)ナチス・ドイツの動物保護法と自然保護法.人間環境論集 5, 55-69.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004868271/


以下、要点と思われる箇所を抜き出してみました。


20世紀はじめころからドイツの市民の間では自然保護への関心が高まっていた。1933年、ナチスドイツは政権獲得後、次々と動物保護や自然保護に関する立法を実現していった。


「動物の屠殺に関する法律」
「不必要な興奮や苦痛を与えないように気絶させるべき」という非人間中心主義的な規定が行われていた。一方で、ユダヤ人の宗教的な屠殺方法は、この規定に抵触することになり、さらには、ユダヤ人の肉食を禁止する狙いがあったともされる。


「動物保護法」
当時、動物実験の全面禁止の意見と、科学(医学)のために必要不可欠とする意見が対立していた。ヒトラーはもともと動物実験の全面禁止を考えていた。動物の保護は、動物それ自体のために行うことを前提に、著しい苦痛や損傷を与える事や、類人猿やイヌ、ネコなどの動物の実験への使用を極力軽減させる事が規定されていた。当時としてはきわめて進歩的な内容で、国外からも高い評価を得た。


「帝国森林荒廃防止法」
ドイツ民族の自然観にとって森林は重要な構成要素であると考えた。若木の伐採を禁止した。木材生産のための私有林を保護した。


「森林の種に関する法律」
木本類を遺伝的に価値の高いものと低いものに区分し、価値の高い木で構成される森林の維持・管理や品種改良を行い、一方で価値の低いものは除去した。


「帝国自然保護法」
「種の保存」、「天然記念物」、「自然保護地域」、「その他野外の自然における景観部分」を保護すべき対象とした。自然保護官庁などの監督機関が設けられ、計画制度への参加が行われた。特定の地域だけの保護ではなく、国土全域の秩序だった景観保護の可能性があった点では国外からも高い評価を受けたが、実際は法執行の不全に陥っており、軍備増強や道路建設、雇用創出などの方が推し進められていた。


ナチス・ドイツの思惑は、動物・自然保護を促進させることよりも、むしろ広範な社会層の支持を取り込むことにあったのではないかと、論文著者は分析している。