鉄理論=地球と生命の奇跡 / 矢田浩(2005年)

鉄理論=地球と生命の奇跡


地球温暖化問題は、政治的に解決しなければならない問題です。その取り組みとして二酸化炭素の排出量の制限が掲げられているわけですが、国際的な合意形成には至っていません。いくつかの技術的解決策が提案されていますが、コストや機械的な問題から、ブレイクスルーはしていません。
本書には、効率的かつ短期的に二酸化炭素が吸収可能な技術的解決策が紹介されています。
それは、海洋生物、とくに植物性プランクトンによって吸収させるという方法です。この技術アイディアは、アメリカの研究者ジョン・マーチンが1980年代に提唱した「鉄仮説」に元づくものです。「高栄養塩ー低クロロフィル」の海域では、植物プランクトンの成長とそれによる生物生産は、鉄の不足に制約されているという仮説です。その後、南極海における大規模なフィールド実験で、仮説は検証され、いまでは鉄理論として認識されています。
簡単にいうと、「高栄養塩ー低クロロフィル」の海域に鉄を散布する→植物プランクトンが大発生する→CO2が大量に吸収される→海洋の中深層へ炭素粒子が沈降する→大気中の二酸化炭素が海洋の中深層に閉じ込められる、というイメージです。この理論は、まだ実践的な研究が必要とされているようですが、著者は可能性を秘めたアイディアだと述べています。