ドイツ旅行記〜哲学・音楽・エネルギー環境・国民性〜

旅行滞在期間2013年8月27日〜9月17日


★首都ベルリン
首都ベルリンで3日過ごしました。街の風景をみたり、美術館や博物館をたくさんまわりました。ドイツ、特にベルリンだからかもしれませんが、世界大戦期のこと、戦後のことが非常に強く意識されます。近現代史についてしっかりと目を向ける、考えるチャンスというものが市民にも観光客にも与えられているように感じます。まだまだベルリンはこれからの街だと思います。工事中、建設中の場所がとても多いです。なんだか戦時中に思想の多様性を軽視し、普遍性を高めるような思想が台頭したことのしわ寄せがまだ完全には清算しきれていないようにも見えます。とはいうものの本当に過ごしやすい気候で、とても便利で、人びとも余裕があって親切で、素晴らしい国際都市であることは間違いないです。これからの発展にも注目したいです。


★国際ビジネス都市フランクフルト
フランクフルトはゲーテの生誕地でもあり、ビジネス国際都市でもあります。ベルリンから列車で6時間かけて移動しました。とても快適でした。途中、車窓から風力発電太陽光発電がたくさん見られました。現在、ホステルというバックパッカーが泊まる施設にいます。世界中の人と友達になれます。環境教育や自然エネルギーというキーワードを挙げれても会話がスムースに進みます。昨晩は金曜日の夜ということもあり、通りでビールやワインを飲む人たちで賑わっていました。こういった様子は日本とは違うなといつも感じます。欧米人は静寂を好まないように感じます。上手なお酒の飲み方をしていますね。


★南西部の黒い森周辺の都市ハイデルベルク、ストゥットガルト、カールスルーエ
ベルリンに比べて日差しが強い気がします。家の屋根には太陽光発電パネルも目立ちます。これらの都市は環境先進都市として日本でもよく紹介されてきました。黒い森(シュバルツヴァルト)に抱かれる緑豊かな地域で、古くから温泉街や保養地としてドイツ国内外の人々から親しまれてきました。そのためか、住民の環境に対する感性も敏感であるのかもしれません。ベルリンやフランクフルトといった大都市でなく、こういった小規模な街から環境保全運動が起こり、ドイツ全体に影響を及ぼすというのは、とても自然な流れのように思いました。ハイデルベルクでは、環境保全団体のBUNDのスタッフの人にもインタビューしましたので、また後日紹介できればと思います。やはりこちらの環境保全活動は、政治と経済とは一体化していることがよくわかりました。ハイデルベルクの動物園もすばらしかったです。ここに来て自分が以前より抱いてきたドイツのイメージと出会えた気がします。


★黒い森に抱かれる温泉街バーデン・バーデン
ブラームスが10年もの間過ごした山あいの町バーデン・バーデン。温泉のある保養地としても今尚観光客が絶えない様子です。ドストエフスキーなどの文豪も夏を過ごしたことで有名。黒い森の囲まれた小さな町で、日本の兵庫県でいえば有馬温泉といったところでしょうか。夏の一番季節の良い時にきたかいあって、晴天に恵まれ、風も心地よい。冬の厳しいドイツ人にとっても至福のひと時でしょう。さすがにアジア人らしき観光客も少なく、レストランでも英語が通じにくい。全裸で混浴というローマ時代式の温泉に入ってみました。案外ドイツ人もお風呂が好きなようで、何の恥じらいもなく混浴の大浴場で泳いでいます。空は青く、緑は濃い。日差しもベルリンに比べると心なしか強い気がします。ブラームスはこんな環境の中過ごし、クララ・シューマンといった音楽家とも交流を深め、創作活動の勤しみました。ブラームスは生涯独身でした。ゲーテも40歳位まで童貞だったとも言い伝えがある。ロマンシズム(ロマン主義)とは、ドイツ人的気質が産み出したものだろうか。何もない町で大音楽家や大文豪は何を考え、何を感じたのか。濃い緑と穏やかな太陽と爽やかな風が、身も心も見たしてくれたのだろう。


★哲学の故郷フライブルク
黒い森の山裾にあるホステルで過ごしています。昨晩はかなり雨が降りました。ヨーロッパでこんなに雨を経験したのは初めてでした。ここでもいろんな人と会話できます。日本の自然のことを話すと大抵の人は日本には手付かずの自然が残っているので羨ましいといいます。その後に、里山管理の話をするとみんな不思議がります。放置しておけば、自然の状態に帰っていくのでは?なぜわざわざ?と。遷移段階が進んでしまうことを説明するとわかってくれますが、なんだか自然を徹底して管理してきた欧米人にいわれるととても不思議な気持ちになります。日本人は自然のなすがままに、あるがままを受け入れてきたように思われますが、その一方では管理もしてきたんだと改めて感じさせられました。
フライブルクは、ドイツで5番目に古い大学であり、数多くの著名な教授が教壇に立ったことで有名なアルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクでも有名です。哲学の分野では、フッサールハイデガーが教壇に立ち、アーレントが学生として学んだことがよく知られています。私は、かなり期待してこの地を訪れました。ハイデガーの痕跡や記念碑などを探そうと、街を歩き回ったり、大学の学生らに話しかけてみましたが、それらしくものはみつかりませんでした。そんな様子を、ホステルのキッチンで他のゲストたちに話しているうちに、あるドイツ人で自分と同い歳くらいの男性が興味を持ってくれました。彼はスイスのバーゼルまでトレイルをしたきた帰りだといいます。彼は、現在外国人のために地元のボーフムでドイツ語の教師をしながら小説を書いており、学生時代は哲学を研究していたと言います。ハイデガーの著書にも親しんでいるということです。そんな彼と意気投合し、私たちは翌朝、インターネットで得た情報を手がかりに、ハイデガーの住んでいた家を探しに出かけました。ところが、ネットで言われているストリートに来てもそれらしき家は見つからず、近所の住民に聞いてみても確かなことはなにもわかりませんでした。彼は慰めに言いました「見つからなくてもいいじゃないか。彼の知識は私たちの頭の中に存在している」フライブルクをあとにして帰国してからもそのドイツ人作家は、ハイデガーの「存在と時間」に書かれていることがより明確になって読めるようになってきたとメールをくれました。哲学とはそういうものなのかもしれません。


★古都ミュンヘン
ドイツの技術・科学系の博物館はどこも充実しています。詳しくはまた機会があれば紹介したいと思います。この写真は、ミュンヘンのドイツ博物館で、自分の家庭の二酸化炭素の排出量が計算できるソフトです。うちエコチェックと同じような機能を持ったものです。左の写真が操作パネルで、右が排出量の「見える化」です。このように博物館に設置してあると、わりあい多くの人が試しているのがわかりました。地球温暖化学習支援ソフト「うちエコキッズ」もどこか県内の博物館に設置できないかなと思いました。


★港町ハンブルク
ハンブルクでは、港町特有の自由な気風と雑多な印象を受けました。ここでは、夜に噴水のライトショーと、プラネタリウムを見ました。いずれもテクノロジーとアートとエンターテイメントを見事に融合させたもので、子どもから大人まで楽しめる内容だったように思います。特に、プラネタリウムでは、いろんなテーマでいくつものプログラムが深夜まで上映されています。ここで気がついたことは、観客をみてみると、星座や天文学を勉強するだけでなく、同時にエンターテイメントとして映像や音楽が楽しめるので、幅広い年齢層や初心者から家族連れ、カップルまで取り込めているということでした。やはりこれからの時代に求められてくるのは、分野の垣根を越えた融合的なイベント、総合的なエンターテイメントなんだなと思いました。逆に言えば、まったく新しいものではなく、既存のモノの組み合わせにすぎないという見方もできますが、本当に新しいものを創造するのってだんだんと大変になってきているという側面もあるのかなと思いました。


★ドイツから日本をみる
ベルリンでは森鴎外の記念館を訪れました。その後、改めて「舞姫」「高瀬舟」「ヰタ・セクスアリス」を読み直しました。夏目漱石でも同じようなことを感じたのですが、日本が開国して、西洋の文化を取り入れ始めたいうことは相当な変化であったことがわかります。感受性の豊かな夏目漱石森鴎外は、帝国化・欧米化する日本という国と、まだまだ精神的には江戸時代のままの民衆との間で生じるひきさかれるような感情を小説に託したのではと個人的には解釈しています。夏目漱石の「三四郎」「こころ」も、森鴎外の「舞姫」も、各登場人物にいろんなメッセージがこめられているように感じられます。森鴎外の生誕地は島根県の津和野です。医師としても、文学者としても多様な才能を持つ森鴎外ですが、陸軍の兵隊の脚気惨害をめぐっては、もしかしたら原因を追求できなかったのかもしれません。いまの時代でもカルチャーショックがあるですから、当時の日本人のショックの度合いは計り知れないように思います。はたして現代の日本人の自然観は開国当時から変化しているのかどうか。


また心苦しいことに、最近の日本に関連する話題は、外国ではオリンピックではなく、いまだにFukushimaでした。ハイデルベルク環境保全団体BUNDでみせてもらった原発反対・再生可能エネルギー賛成を示すキットです。太陽光によって駆動する人のフィギュアがプラントを破壊します。(だめなものはだめと言えてしまう国民性やバックグラウンドがうらやましかったりも、、、)といってもドイツは9基の原発が稼働しており、太陽光・風力への転換し進めているものの、火力発電への依存はいまだに高く(CO2排出量はEUで一番多い)、夏期(火力発電所点検整備のため電力供給が減る)はフランス(原発大国)から電力を輸入しています。ハイデルベルクカールスルーエのあたりは原発に囲まれています。旅行中、同じアジアの中国や韓国の若者からも、事故後もリスクが計り知れないまま汚染水を流すのはやめてほしいとか、食べ物は本当に大丈夫なのかと言われます。だからといって、その辺のところで逆ギレしても大人げないので、だからこそ環境教育が必要なんだと思い取組んでいると返事します。欧米と日本では背景も国民性も違うので、何をよいとするかは違ってくる可能性があります。しかし国際的にはそういう心配のまなざしで見られているのだと感じました。