Verve Jazz Masters 13 / アントニオ・カルロス・ジョビン

Verve Jazz Masters 13 : Antonio Carlos Jobim
★曲目
1. Corcovado
2. Vivo Sonhando
3. So Danço Samba
4. Desafinado
5. Águas de Março (Waters of March)
6. O Grande Amor
7. Agua de Beber
8. Chovendo Na Roseira
9. O Morro Não Tem Vez
10. Fascinating Rhythm
11. Insensatez
12. Inütil Paisagem (Useless Landscape)
13. O Morro Não Tem Vez
14. Por Toda a Minha Vida
15. Triste
16. Borzeguim
★どうして、スペインやブラジルでは、フラメンコやボサ・ノヴァといった音楽のジャンルで、楽器として、両手を使って同時に伴奏とメロディーが奏でられるピアノではなく、ギター1本でバッキングとメロディーを、(多くの場合)左手でがんばって押さえて、(多くの場合)右手でリズムをとって(カッティング)弾くという(左手の指がつりそうな)複雑なスタイルが発達したんだろうと不思議に思うことがあります。
ピアノという楽器の音域の広さ、強弱のつけ易さ、両手で弾けるメリットを目の当たりにすると、”ピアノでできない演奏はない”という、あるクラシック好きの人の言葉をよく思い出します。しかし、本当に、ギターという楽器はどうがんばっても、鍵盤楽器のピアノには及ばないのでしょうか。
ともあれ、ボサ・ノヴァは、クラシック(ガット)ギターで奏でられる文化があり、その創始者の一人がアントニオ・カルロス・ジョビン(略してトム・ジョビンと呼ばれることもある)であることは誰しもが認めることです。しかし、トム・ジョビンは主にピアノで演奏し、作曲もピアノで行っていたと思われます。一方で、創始者の一人として有名なジョアン・ジルベルトは、ギター1本で、サンバのリズムを表現した革命児です。
ブラジル音楽は、リズムの宝庫であり、ボサ・ノヴァにはサンバなどのエッセンスがふんだんに取り込まれています。ボサ・ノヴァの音楽自体はテンポが非常にゆっくりであるのに、ギターの伴奏に耳を傾けてみると、むしろ、スピード感を感じます。コード・ワークも非常に多彩で、セブンスコードなどの曖昧な響きもたくさん含んでいます。微妙に哀愁があるけれど、微妙に明るさもあるといった感じで、浜辺のさざ波やそよ風を連想させます。それから、これが一番の特徴だと思いますが、ギターのカッティングには、シンコペーションやアンティシペーションが多用されています。コードが変わるのが、小節線の後ではなく、直前なんです。この”食った”感じ(フライングした感じ?)が、あの心地よいテンポを表現しているのだと思われます。
音楽でいうところの”ノリ”は、例えば、何拍目で、ブラッシング音を入れるか、休符を入れるか、どこで、コードを変えるかで、大きく変わってくるんですね。
また問題に戻って、ピアノになくて、ギターにあるもの。これは、難しい問題ですが、強いて言うなら、その一つが、ブラッシングの音じゃないかなぁって思います。右手の平でミュートをして、ピックで擦る時にでる”チャッ”という音です。しかし、ボサ・ノヴァの場合は、右手はピックではなく、指で爪弾くスタイルです。よって、ブラッシング音はほぼ使われていません。
ボサ・ノヴァがギターで奏でられることの必然性ってなんでしょう。それは、もしかすれば、微妙な変化を伴うコード・ワークに答えがあるかもしれないですね。ギターは、物理的に(指の押さえられる位置、形)、急激なコードの変化が難しいと思います。例えば、トム・ジョビンの名曲「悲しみ(Triste)」のコード進行を見てみると、イントロから、9小節くらいまでは、A△7(9)→Am7(9)→Aadd9→Am7→Am6→Aadd9と進行しています。ルート音は、もちろんAです。ギターでいうと、5弦です。しかし、急激なコード(押弦の位置)の変化も多々あるので、これは説得力がないですね。もっと単純に、ピアノよりもギターの方がずっと安価で手に入りやすく、場所もそれほど取らないし、こっそり押し入れやバスルームに閉じこもって練習できるといった理由なのかもしれないですね。ジョアン・ジルベルトの作曲の逸話を聞くと、そう思えてきます。
ギターで奏でられる理由がなんであれ、ボサ・ノヴァ・ギターが担っている仕事は唯一無比と思えるくらいに魅力的ですよね。なんだか、循環論法に陥ってしまった気もしますが...


Antonio Carlos Jobim & Joao Gilberto-Desafinado



Joao Gilberto - Garota de Ipanema

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