地下室の手記 / ドストエフスキー

地下室の手記(光文社古典新訳文庫)
★光文社が、古典の新訳を文庫で進めており、「カラマーゾフの兄弟」全5巻が40万部近く売れたそうです。ちょっとしたブームです。
★「罪と罰」から「カラマーゾフの兄弟」にいたる長編作品へのプレリュードとして重要な意味を持つと言われる短編「地下室の手記」。当時、ドストエフスキーは、ごく最近の時代の特徴的人物の一人を、普通より少し際立たせて、大衆の面前に引き出そうという意図を持って書いたと言われています。かつてのロシアの40年代のロマン主義も、新しい波である60年代の西欧の合理主義も迎合しない主人公。無気力かつエゴイストな人間として描かれており、全体から孤立しています。
日本でも最近不可解な殺人事件を耳にすることが多いです。この作品の主人公が吐露する自身の内面を読んでいると、もしかすれば、今の日本でもこういう心境の人は多いのかも知れないとも思えてきます。地下室に閉じこもっていると言えども、「外」を捨ててしまったわけではなく、むしろ、周りのことは相当に意識していることがわかります。
この作品では、「個」と「全体」とのつながりのありようについて深く考えさせられます。ドストエフスキーは、どのような思想によって解決を見出したのでしょうか。カラマーゾフの兄弟において、「人はあらゆる人に対して罪がある、と各人が気がつけば、すなわち楽園は実現する」というくだりがあります。ロマン主義でもない、西欧の合理主義でもない、現実の社会にそういった楽園は存在しうるのでしょうか。
一方で、本書は、荒削りな作品であることは否めません。ドストエフスキーの答えを読み取ることは、本書だけでは難しく、「罪と罰」以降「カラマーゾフの兄弟」までの作品を一通り読んだ上で再び読み返した方がいいように思えます。


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