有機農薬

農薬を研究していると話すと、必ずといっていいくらいに聞かれることがあります。それは、”「有機」表示のある農薬っていいものですか? 特に、なたね油やマシン油のものは効くのですか?”というものです。


有機」表示のできる農薬というのは、「JAS法」により規格が定められており、「有機農産物」は登録認定機関によって認定されています。「JASマーク」の貼付を許可されて始めて、「有機」の表示が可能となります。この法律において、「有機農産物」とは「化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けたものを基本とする」と、定義されています。


下記のページに「有機」として使える農薬登録のある商品一覧が載っています。
http://www.greenjapan.co.jp/yuki_hyoji_noyak.htm


天然由来物質を主とする農薬として、なたね油やマシン油を有効成分とする製品がいくつかあります。


これらの製品は、害虫の神経系に作用して効果を示す多くの農薬とは違い、害虫の気孔を塞ぎ、窒息死させます。物理的に膜で虫体を覆うのです。アブラムシ、カイガラムシ、ハダニに吹き付けると、数時間後にカチカチに固まるようです。害虫に薬剤耐性が生じる可能性も非常に低いとされています。


しかし、注意点としては、このスプレーの散布が不十分で被膜が形成できなかった虫個体が生き残ってしまうことがあるようで、満遍なくスプレーしなければならないことと、食用油を使っているので、吹きつけた場所の油分から臭いが発生し、その臭いによりハエ・コバエなどの他の虫を誘引してしまうことが挙げられています。


また、植物などへの被害(薬害)を気にする声もあるようですが、これも使用時期・濃度を間違えると薬害を引き起こす恐れはあるようです。


話は有機表示農薬に戻りますが、一番注意しなければならないのは、有機表示があっても、たとえば、ピレスロイド(除虫菊の成分)は強い発ガン性があり、ロテノン(マメ科植物のデリスの成分)も神経毒です。これらは低濃度で強い毒性を示します。そもそも、毒性学では、毒という概念はなく、毒性を発揮するに足る量で物質をみます。


したがって、厳密には、どの程度の毒性を持つものをどれくらいの濃度でどれくらいの量を使用したのかを見るのが大切です。物質の殺虫(菌)性と使用量の間には、通常、トレード・オフがあります。すなわち、よく効くものほど、少量ですむが安全性が低い、逆に安全なものほど、大量に使う必要があります。


ただし、なたね油やマシン油のものは被膜を形成するものであり、これらの物質自体は毒性の低いものなので、虫体に被膜を形成するようにピンポイントで効率よく散布すれば、安全性の面でも経済的にもよいものかもしれません。面積のそれほど広くない、家庭菜園レベルの農地では、比較的使用価値の高いものかもしれません。