世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上・下)/村上春樹(1985年)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)


世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)


★確かこの本は10年くらい前に読んだ記憶があります。ハードボイルド・ワンダーランドの主人公「私」は、村上春樹の小説の登場人物らしく「殻」に閉じこもったところがあるのですが、この小説ではその「殻」が物語の展開の鍵になっています。
やみくろが都心の地下鉄・下水道に巣食っていることの事実は、われわれの足下は実は揺らぎやすいものだということのメタファーなのではないだろうかと考えました。これは、人間の意識が心全体からみれば氷山の一角にすぎないことのアナロジーにもとらえられます。
一方、『組織』と『個人』の関係についても考えさせられます。かつて「私」同様に『組織』の計算士だったものたちが、不自然な死に見舞われたのに対して、「私」一人だけは大丈夫だったのです。このことは、身も心も『組織』に染まってしまうことの深層心理レベルでの恐ろしさのメタファーなのではと考えました。「私」の「殻」は、「私」を救ったのです。