贖罪 / イアン・マキューアン (2003年)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)
贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)


★「アムステルダム」は、自分は正直それほどのめり込める作品ではなかったです。同性愛に抵抗があるからかもしれません。一方、「贖罪」は、映画で見ていたのもあり、どっぷり浸かることができました。


本作、どうしてもイギリスの小説として読んでしまいます。イギリス人というのは、日常生活を詳細に描く事に長けているのでしょうか。ジャンルは異なれど「高慢と偏見」をはじめ「シャーロック・ホームズ」、チャールズ・ディケンズシェイクスピアの作品、自分がどれほど深く理解できているかはわかりませんが、日常を土台にした展開であり、細やかで写実的な心理描写が多いように思います。等身大の描かれ方が多いように思うのですが、、、ただ、ハリーポッター不思議の国のアリスを考えると一概にそうも言えないでしょうか。


いずれにせよ、本作は小さな嫉妬心が人の人生を大きく変えてしまう日常を舞台としたストーリーです。誰しもが抱きそうな感情から始まり、そのことによって近しき者の人生を不幸な方向に向かわせてしまったという罪悪感をずっと抱きながら、つぐなうことを胸に秘め、その人を救うために生きていく。心の中では嵐のような葛藤があったとしても、外には発散されないという様子でしょう。一見平和で穏便に見えるその生活の裏からは危機感がにじみ出ているというのが、イギリス文学なのかなって思います。


自分が原因で、ある人を不幸にしてしまった場合、私の身を犠牲にすることで、私の罪は贖われるのでしょうか。深いテーマが横たわっています。「神」や「宗教」という超越的なものへ収束させていく方向ではなく、あくまで現実世界の中で、この問題を問いかけてくるというのは非常に画期的だと思います。