聖者たちの国へーベンガルの宗教文化誌 / 外川昌彦(2008年)

聖者たちの国へ―ベンガルの宗教文化誌 (NHKブックス)


ベルクソンの『道徳と宗教の二源泉』での神秘主義についての議論を読んだ上で、本書を読むと、本質的なところで宗教やスピリチュアルの本質がつながってくるのがわかります。
自分は、ベンガル地方の一都市であるコルカタに3日ほど滞在して、街の様子を見てまわりましたが、インドの中で最も混沌とした地域ではないだろうかと思いました。一見最も馴染みにくそうな地域なのですが、はまると最も心地がよい場所な気がします。マザー・テレサタゴールといった多くの偉人がベンガル地方で、偉業を成し遂げました。まるで、泥に蓮が咲くようなイメージです。
インドという国を知れば知るほど、西洋の枠組みでは、なにも捉えられないように思います。西洋的概念としての「宗教」、「スピリチュアル」、「ヒンズー」、「イスラム」、「国家」、「国境」、「民族」といった枠組みで捉えようとしたことが、宗教の対立、民族の対立を生み出したのではとさえ思えます。
リアリティとはなにか。ベンガルの聖者たちの試みは、現実に即したものであったことが、本書から伺いしることができます。

現実の困難さに直面する人々の、その抗いようのない現実を捉え直し、それを乗り越えてゆこうとする、人々の切実な思いによって裏付けているように思われてなりません。


ローカルな農村社会での相互理解を欠いたシンクレティックな状況が、結果として他者への無関心の態度をも許容しているという状況でした。つまり、このことが意味しているのは、人びとの宗教的「寛容性」や「多元的共存」という状況が、必ずしも「宗教」間の対立や紛争とも矛盾しないという事実なのです。