緑の政治ガイドブック―公正で持続可能な社会をつくる / デレク・ウォール(2012)

緑の政治ガイドブック―公正で持続可能な社会をつくる (ちくま新書)


★緑の政治は1970年代に誕生し、いまやアメリカ、ドイツ、イギリスといった北の国だけでなくキューバ、インドや中東といった第三世界にも広がりを見せています。「緑の党」の基本理念には、「草の根民主主義」「非暴力」「社会的公正」が掲げられています。一方、グリンピースなどの環境NGOとも基本理念を共有しており、しばしば連携した活動を行っています。伝統的な「党」政治ではなく、政党的なものを否定しているところも、注目すべき点です。


緑の政治とは、イデオロギーであり、多様な言論活動を内包していますが、概ね「環境危機の根底にあるのは、経済成長だ」というところで意見が一致しています。資本主義社会でみられる「モノの使い捨て」「エコ商品とうたわれるものを含め、あらゆるものが商品になる」という現象により、格差はさらに拡大すると懸念を示しています。環境問題がグローバル化する中で、気候変動の主要な要因とされる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を制限するために持ち出されたのが、「排出権取引」ですが、それは「大気を汚染する権利」を売買しているにすぎず、逆効果であると批判がなされています。それに付随する形で、「カーボンオフセット」「カーボンニュートラル」という価値を付加された商品についても、問題の核心にあるのは「商品化」であるのにもかかわらず、これらの商品は、個人の消費と生活様式を変えなければならないという問題の本質から、人々の目をそらせていると指摘しています。「地球に優しい」をキャッチコピーにする商品や緑の企業も増えているのは事実ですが、化粧品会社やオーガニック商品は市場のすきまで利益を挙げようとしているにすぎず、そういった「緑のビジネス」は、生産段階や物流段階では石油燃料に依存しており、矛盾しています。


著者は、緑の党の元主席議員ですから、本書は政治活動の一環として捉える事ができますし、緑の政治の宣伝をしていると言えばそうです。日本においては、政治のことや支持政党のことを発言することに対してとても慎重で、できれば触れないようにする風潮が見受けられますが、欧米では、自分の信条を主張する文化があるのがよくわかります。緑の政治を支持する人物や活動に対して、肯定的な見方をしている感は否めませんが、本書は、地球レベルでの環境をめぐる政治的な動きを理解するにはとてもよいガイドブックであると思いました。著者は、欧米だけでなく、キューバ、インド、中東、アフリカでの出来事まで幅広くカバーしています。


緑の党が掲げるのは、反・資本主義です。GDPで測られる経済成長に懐疑的です。この理念をそっくりそのまま日本に持ち込めるのかどうか。個人的には難しいのではと思います。日本では自然と人間の関係性が、欧米とは違うからです。単純な支配―被支配の二項対立の図式ではありません。また、産業の面からみても、原料を海外から輸入し、それを高度な技術力を持ってして商品化することで成長したきた国だからです。そして何より、政治に関与していく風潮が欧米に比べて希薄だからです。個人ひとりひとりが変わっていくことを期待するより、欧米諸国がグリーンに変われば、日本政府は、エネルギー政策、公共交通手段、公共施設、都市設計を、大企業は、原材料、生産、物流の仕組み、商品のあり方、社会貢献、環境保護活動のやりかたなどをとりいれ、トップダウンの形で国民レベルの生活にグリーンな生活様式が広まって行くという流れになるのではと思います。一方、ひとの精神的な欧米の緑色に染まるという可能性は低そうです。あるとすれば、日本人が古来より培ってきた自然観の再発見・復興という形になると思います。ネックは、やはり巻末の中沢氏と鎌仲氏の対談ででてきているように経団連ということになるのでしょうか。