社会学入門をどう捉えるか / 稲葉振一郎(2009)

社会学入門 〈多元化する時代〉をどう捉えるか (NHKブックス)


★Fact is stranger than fiction.(事実は小説より奇なり)とはよく言ったもので、現実社会で起こっている事件や出来事の原因や要因を追求したり、根底にある理論や思想を理解しようと試みるものの、なかなか物事は一筋縄ではありません。差別、ナショナリズム、経済的混乱、地球環境問題等々、それぞれの事象が複雑に絡み合っています。現代は「多元化の時代」だとよく言われます。フロイトは「人間の精神には自分ではどうしようもない領域がある」という認識に到達しました。社会学の問題意識も然りです。近代(モダニズム)の幕開けです。疑いようのない私すらも疑われ始めました。社会学というのは、端的に言うと「社会的に共有される意味・形式の可変性・多様性についての学問」とされます。例えば、経済的富の不平等の分析とその対策について考えみると、経済学は、量的・金銭的な視点での政策提言を得意としますが、社会学は質的な分析と政策提言が可能です。すなわち、経済的な貧しさゆえに教育を受けられず、読み書きができずに社会的なコミュニケーションから疎外されてしまうといった事象において分析と提言の対象とすることが可能です。人間社会においては、常に同質化と差異化・差別化が繰り返し起こっています。差異化と差別化は、どうしても経済的な格差や不平等、さらには政治的な権力支配関係と絡まり合わざるをえないです。これが、「ナショナリズム」の発生根拠です。20世紀末の社会主義の崩壊後、自由な市場経済と議会制民主主義のもと、世界は同質化が進行するとみられていましたが、ナショナリズムが高揚し、民族紛争が激発したことで、安易な理解が許されなくなりました。社会学というのは、集団的アイデンティティという「同質性」だけに焦点を当てて、一般理論化するだけでなく、集団の分化・差異化・差別化をも含めて考える学問であるとされます。その意味ではナショナリズム研究において有利な一面もあるとのことです。