菊と刀 / ベネディクト(2008年)

菊と刀 (光文社古典新訳文庫)


★ベネディクトの「菊と刀」。知らない人はいないでしょう。ベネディクトは、日本を訪れたことはなかったのですが、日本に関する文献の熟読と日系移民との交流を通じて、ここまで詳細にかつ本質的なところを見抜いているということに驚愕します。


日本人から学ぶよりも日本のことが理解しやすいです。第11章の「鍛錬」の部分で、鈴木大拙の書が引用されながら禅のことが説明されています。無我というのは、「観察する自己」が忘れ去られる状態のこと。無我の状態では、「それをしている感じ」がなくなる。と説明されています。


一方、「建前」の文化についても説明されています。「本音」と「建前」を区別し、体裁を整えることを重んずることも説明されています。「面目をなくす」といいったように「恥」の文化があることが挙げられています。


日本人は伝統的には、世間からの目を気にしながら生活している反面、禅の精神が武道、古典芸能、日常生活に反映しています。まるで欧米の文化とは正反対です。旧来の見方に従えば、「自意識過剰」「自己主張が強すぎる」であったり、むやみやたらに「発言しまくる」というのも、旧来の考え方ではあまり好ましく思われないでしょうか。


近ごろは、他人から受けた恩は、お金で返すというのがあたり前になってきたように思います。仕事であれば時間を割いてもらった分の代金は払うことでバランスがとれるのですが、個人的につきあいの場合に友人や目上の人にいただいた恩は、すぐにお金で返すというのは個人的にはためらいを感じます。また、知識を共有することも、出し惜しみにする傾向が強くなっているように思います。何かを教えてもらったからといって、すぐにお金を支払うべきでしょうか。すぐにその場で何かで償おうとする行為は、その人を台無しにしているような気がします。次の機会がないかもしれないという気持ちの表れのようにも感じられるからです。