経済学入門 / ティモシー・テイラー(2013年)

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編 スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編


★「自分は経済と政治については初心者」という思いが強くなりました。逆に言えば、特に何か特定の物事の見方や考え方に染まっていないということかもしれません。特に経済については、理想論や先入観を排して、あくまで実際的に(プラグマティック)に考える事が大切ではないでしょうか。本書でも度々出てくる、トレード・オフという考え方はいかなる場合も念頭におくべき物事の見方でしょう。トレード・オフというのは、何かを重視すると別の何かがおろそかになるような両立しがたい関係のことを言います。あちらを立てればこちらが立たず、ということです。政府は、企業をとるか個人をとるか、環境開発を進めるか、保全を行うかなど、どちらかを取捨選択せざるをえない場面が多々あります。うまく両立できそうという状況でも、実は気がつかないところにしわよせができていることもあります。冷静に、客観的に事態を把握する必要があります。


トレード・オフのみがすべての要因になっているわけではなく、経済というのはなかなか一筋縄ではいきません。自由貿易についてはどうでしょうか。国際貿易を増やせば経済がかならず成長するかということはなく、教育水準が低く、投資も低調で、交通や通信のインフラも整備されず、汚職がはびこっているような国では、いくら貿易を推進したところで経済成長は見込めないとされます。グローバル化が進んだとしても、カナダとアメリカで見た場合、国内での取引量の方が圧倒的に多いです。先進国については、国外との取引の方が、国外との取引よりも3〜10倍多いという結果からみると、国の垣根はまだ低いとはいえません。国は放っておくと保護貿易の方に傾きがちです。自由協定に参加をしなくなると、国際競争にとって大きな影響を受ける産業が、自由貿易に反対するような圧力をかけます。企業同士が組織的に活動し、既得権益を守ろうとするばかり、そのしわよせは一般の消費者にコストとして押し付けられる結果になります。


今後も自由貿易に向かう流れはそう簡単には止まらないと言われます。世界の経済を脅かすものがあるとしたら何でしょうか。エネルギーの枯渇については、今後30〜40年はエネルギー不足で経済が行きづまる可能性は低いです。シェールオイルやタールサンドなどに化石エネルギーの活用の可能性もあり、技術の進歩によって、違うエネルギー源が利用できるようになったり、既存のエネルギーを今よりも効率的に仕えるようになるかもしれません。


環境汚染については、中国、インド、メキシコなど急成長のさなかにある国々では、アメリカが同じような段階にあった時代とくらべてははるかに環境に対する意識が高くなっています。国が豊かになればなるほど、環境対策はより充実する傾向があります。


人口爆発については、日本や西ヨーロッパでは少子化が急速に進んでおり、今後半世紀の間に人口が激減すると予測されています。膨らみ続けるを懸念するだけでなく、一部の国では収縮していくことも考える必要があります。


ある国の経済が成長したからといって、ほかの国が貧しくなるということではなく、もしろその逆で各国が協力して商品や生産過程、技術、知識を共有していけば、すべての国がより豊かになると期待されます。ただ、法律や金融のインフラをしっかり整えなければ、とりのこされます。


経済の発展が環境に悪いとは限りません。ある人や企業の経済活動が、無関係な人に影響を及ぼすことを外部性と言うのですが、環境汚染は不の外部性です。環境政策のやり方には、いくつかあって、例えば命令と管理によって環境を改善しようとするアプローチ(コマンド・アンド・コントロール)では、下水処理場の整備と生活排水対策のおかげで環境が改善される部分もありますが、ある程度まで進むと新しい手段がうまれてこなくなります。一方、経済原理をうまく利用したアプローチもあります。排出権取引と呼ばれる手法で、企業は一定量だけ排出する権利が与えられ、削減努力によってその権利分が余った場合は、それを誰かに売る事ができます。ただ環境への負荷をゼロにするというのは、至難の技で、ある程度は許容しなければなりません。生産活動による利益と環境汚染によるコストのバランスを考えることが大切です。