Study: An Army of Bacteria Glows To Detect Land Mines. New York Times Intl. Weekly. July 4, 2021

タイトルは、「バクテリアの大群が地雷検知のために自ら光を放つ」(2021年7月4日)

エルサレムヘブライ大学の研究者らは、ここ10年間、E. coli(大腸菌)を用いた生物地雷センサーを研究開発してきた。研究グループリーダーである微生物学者Shimshon Belkin博士は、遺伝子工学の技術を用いて通常の大腸菌を改良し、爆発性の化学物質を検知すると「ミクロサイズのホタル」のように発光する機能を持たせた。

・2019年には、5,500人以上の人が地雷により死亡あるいは負傷している。そのうち80%が一般市民である。対人地雷は対角距離で数センチほどで、容易に隠蔽設置することができる。世界中に埋められている地雷は、推定1億1千万個にものぼる。今まで地雷の探索の手段として、金属探知機、訓練を受けた動物(ラットなど)が用いられてきたが、どれにもメリットとデメリット(リスクとコスト)の問題があった。

・その点、バクテリア地雷探知機は、安価かつ回収不要であり、地上に散布できる。効果(発光反応)は、数時間から1日で現れる。「プロモーター遺伝子」と呼ばれるDNA領域がスイッチのオン/オフとして働く。「レポーター遺伝子」領域が発光反応を促す。

・科学者は、大腸菌を2,4-ジニトロトルエン(DNT)と、その副産物の揮発性物質であるトリニトロトルエンTNT)という化学物質に反応するように遺伝子改変した。地雷は設置後時間の経過とともにDNTは揮発し、周囲の土壌に浸透する。それを大腸菌が嗅ぎ分ける。

栄養を含んだ寒天培地に大腸菌は固定され、散布される。1つのシャーレ(培地)には15万個の活性細胞が含まれ、対角距離で100〜300万メーター散布可能である。

ヘブライ大学のAharon J. Agranat研究員は、開発当初の大腸菌は、試験フィールドに散布した際に、月や街の明かりに干渉されて、バクテリア独自の発光かどうかを識別することが難しく、課題があった。しかし、この問題を解決するために、大腸菌を覆い隠し、光を検知しやすくなる装置を開発した。フィールド実験は論文として発表されていないが、「概ね、成功した」と担当者は述べた。さらにこの研究者グループは、今後はドローンを用いて空中からバクテリア地雷探知機を散布することも考えている。

・しかし、このバクテリア地雷探知機は、15〜37℃の気温でないと正常に機能しないため、フィールド環境に応じた利用が必要になる。

 

キーワード

Hebrew University of Jerusalem エルサレムヘブライ大学
ヘブライ大学は2012年の大学ランキングで22位にランクされたほどの有名大学の一つで、理系において高い研究レベルを誇っている。特にAIなどの情報工学や物理光学に強みを持っている。

 

Genetically engineered bacteria 遺伝子改変細菌(E. coli(大腸菌))

野生型タンパク質をもとに遺伝子工学によって、蛍光強度や波長特性、至適温度、発色団形成速度など様々に異なる改変型GFPが作られている。GFPおよび、改変型GFPは、細胞生物学・発生生物学・神経細胞生物学などをはじめとして最も広く使われるレポーター遺伝子となっている。

GFPはリアルタイム、かつ、その場で(in situ:細胞破壊の必要がない)検出でき、他のタンパク質との融合タンパク質としても機能を発揮する(GFPタグ)ことから、特に細胞内のシグナル伝達などに関与するタンパク質の細胞内局在を明らかにするツールとして、なくてはならぬものとなっている。ただし実験対象のタンパク質の機能に影響を与えるおそれが皆無ではないので、結果の解釈は慎重にすべきである(現在これに代わる低分子の試薬も開発されつつある)。

Shimshon博士は、ルシフェラーゼや蛍光タンパク質を用いている。TNT火薬の揮発性の分解物に反応するバクテリアの遺伝子を解析し、そのプロモータを同定した。そしてプロモータの下流にルシフェラーゼや蛍光タンパク質を挿入、TNT火薬を検出する発光バクテリア、蛍光バクテリアを作り上げた。

TNT火薬を検出する発光・蛍光バクテリアアガロースビーズに吸着させ、TNT火薬を埋め込んだ野外環境に散布する。ヘブライ大学の光学系の研究者らのノウハウで、励起光レーザーと高感度カメラを組み合わせることで30mくらい離れた場所でも蛍光バクテリアの可視化を、或いはドローンに高感度カメラを搭載、やはり30m程度の高度から発光バクテリアの可視化を行い、TNT火薬の検出に成功した。今は、さらに実用を目指して研究を進めている。