還元論批判には納得

時々僕は思う.世間一般では,遺伝子というキーワードは,もしかすれば,物理学でいう,原子や素粒子のように思われている最小の単位なのだろうかと.科学には還元論の考え方がある.物事をつぎつぎと下のレベルに細かく見ていき,たとえば物質は原子からできている,原子は素粒子からできている,といった具合に自然界を構成する最も基本的な要素は何だろうかと探していく.そして,上のレベルの現象を下のレベルの原理で理解するのが還元論だ.生命を情報の集まり(情報システム)だと思ったときに,情報にも階層があるので,還元論的な見方ができる.その一番下のレベルにあるのが,分子または遺伝子だ.
 20世紀後半の生命科学分子生物学全盛の時代だった.その根底には「生命のはたらきは分子や遺伝子のはたらきとして理解できる」とする,まさに還元論の考え方がある.例えば「遺伝子の変異が分かれば病気の原因が分かる」あるいは「遺伝子の変化で生物種の進化が分かる」といった主張が行われてきた.確かに遺伝子は生命を構成する基本部品だ.しかしながら,すべての部品の情報が解ったとしても,すぐに生命のシステムを作れるわけではない.
還元論の対義語,全体論というものがある.僕は,自分の研究分野のせいか,この全体論の考え方にある意味では賛同ができる.しかし,こういった二項対立も大切なのだが,僕個人として極論を言わせてもらえば,還元論全体論も,どこを主眼に置くかの違いだと思っている.還元論の主眼が,最小単位”遺伝子”なら,全体論の主眼は,遺伝子や個体の”相互関係”にあるのではないかと思う.