魔弾の射手/アーノンクール指揮,チューリヒ歌劇場管弦楽団・合唱団

ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》全曲 [DVD]


カール・マリア・フォン・ウェーバー歌劇『魔弾の射手』
★指揮:ニコラウス・アーノンクール / 合唱指揮:エルンスト・ラッフェルスベルガー / 演奏・合唱:チューリヒ歌劇場管弦楽団・合唱団
オットカール、領主:チェイン・デヴィッドソン / クーノー、森林官:ヴェルナー・グレシェル / アガーテ、クーノーの娘:インガ・ニールセン / エンヒェン、若い親戚:マリン・ハルテリウス / カスパール、第1の狩人:マッティ・サルミネン / マックス、第2の狩人:ペーター・ザイフェルト / 隠者:ラズロー・ポルガール / キリアン、富農:フォルカー・フォーゲル / ザミエル、狩の魔王:ラファエル・クラーメル / 4人の花嫁介添娘たち:スザンネ・メルレ / アンナ・ソラノ:エレアノル・パウノヴィチ / リサ・ヴェスターマン / 2人の狩人:マイノルフ・カルクーン、ハルトムート・クリスズン
1999年2月9・11日チューリヒ歌劇場


★自分には変な癖があるようで、音楽に対しては「よくわからない」と感じるものほど、気になってしまう傾向があります。例えば、ブラームス交響曲を初めて聴いたときは正直よくわからなかったですが、その「わからない」という第1印象が強いほど気になってしまって、毎日聴いてしまいました。その結果、今となってはすんなりと心地よく聴けるお気に入りの音楽になりました。
どうやらオペラに関してもその癖が出てしまうようです。例えば、プッチーニヴェルディの作品にはキャッチーなメロディの含むアリアが多いので、とらえどころ、聴きどころを見つけることが容易で「わかった」気になっています。ところが、今回紹介するカール・マリア・フォン・ウェーバーの『魔弾の射手』についてはCDを聴いている限りではよくわかりませんでした。さらにいうなら、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』なんて、ずっとわからないままです。まあ、これに関しては、そういうものなのだという免疫のようなものが出来てきたのですが。
ウェーバーの『魔弾の射手』は、映像を見てもわかった気がしなかったです。しかし、それは「いい意味でわからなかった」ということです。見終わった後で、あれどういう意味だったのだろうかと、再び確認したくなるような演奏、演出でした。
ドイツ民謡の宝庫として親しまれている『魔弾の射手』ですが、アーノンクールは意図的に弱い音を多用し不安定に仕上げている部分があります。一方で、演出では、象徴主義的手法を得意とするベルクハウスにより不思議な世界が繰り広げられています。ワーグナーのオペラも千差万別の解釈を生み、象徴的な演出も多いように思えるのですが、これはドイツ・オペラの特徴のひとつでしょうか。『魔弾の射手』は、モーツァルトワーグナーの架け橋的存在とも言われているようで、確かにそういう流れの中にあるのもわかります。モーツァルトウェーバーのオペラがわかってきはじめると、ワーグナーもわかってくるような気がします。文脈があります。そういう意味では、長く付き合うならドイツ・オペラなのかなぁとも思います。
ライナーノーツは山崎太郎さんによって書かれています。この解説のおかげで随分理解が深まったように思えます。一発の成否に森林官という重職の決定をくだす村の共同体の在り方が、博打にうつつを抜かすカスパールの自堕落な生き方にも通じていること。一方で、エンヒェンの生活信条は、カスパールの刹那主義とある点で通じながらも、その外への現われ方がかなり違っていること。これらの指摘を考慮した上で観てみると、さらに物語に面白みが出てきます。