仏の教え ビーイング・ピース―ほほえみが人を生かす / ティク・ナット・ハン (1999年)

仏の教え ビーイング・ピース―ほほえみが人を生かす (中公文庫)


★目次
第1章 苦しむだけでは充分でない
第2章 三つの宝石
第3章 感情と認識
第4章 実践の真髄
第5章 平和のために働く
第6章 相互生存
第7章 日常生活においての瞑想


★ティク・ナット・ハンは、詩人、平和活動家としても名高く、現在、欧米において最も影響力のある仏教指導者の一人といわれます。マーティン・ルーサー・キング牧師によってノーベル平和賞候補に推された話は有名です。


かつて歴史上戦争の絶えなかった中国では、仁(人間愛)と礼(規範)に基づいた理想社会の実現を主張した儒教が広まりました。


ティク・ナット・ハンの独自性は、十四の戒律の制定にあります。この十四戒律が生まれたのも、そのヴェトナム戦争の最中で、仏教徒たちは、その徹底した中立主義ゆえに、南北の双方からスパイ扱いされました。さらには米軍の爆撃で多くの仲間のいのちが奪われました。しかし、仏教徒たちは十四の戒律という高い理想をもとに行動することを教義としたのです。


この戒律は、「〜しなければならない」というような義務論ではないところもひとつの特徴ではないでしょうか。通常、戒律というものが、「殺してはならない」というように身体に関する禁止事項から始まるのに対して、心に関する事柄が最初にきています。それは仏教では、心が、そのほかのすべてのものの根源だからといわれます。


仏教においてもっとも貴重な実践は瞑想であるといわれます。瞑想とは、自己の内面に起こっていること、周囲に起こっていること、社会や環境に起こっていることをはっきり知ることだと説かれています。


自分個人のレベルで本書を読んだ感想としては、坐禅の重要性、自己を見つめることの大切さについては、再確認できました。「体の中の体を静観する」と表現されているのですが、例えば、「今私は怒っている」と自分の感情の動きに自覚的であることは、衝動に駆られて取り返しのつかないことをやってしまうことを防ぐのにつながります。


さらには、日常という現実においては、「今」と「私」がどんどんと失われていくシステムになっていることを感じました。例えば、何をするにしても、過去の知見を踏まえつつ、将来の計画を立てることが多いからです。そのように情報の取捨選択に長けた人は、とても優秀な人とされます。そして、その判断が普遍的かつ再現性のあるものであればあるほど、高い評価が得られます。このような風潮では、「今」と「私」が限りなく狭められていくようにも感じられます。


それでも現実世界では、計画的に、論理的に、理性的に振舞うことの方が上手に生きていくことができます。科学的な知見(技術)は色んな利益をもたらしてくれます。自分の生命さえも保護してくれます。


理性と本能。この二つが相互浸透することが、一番の理想かもしれません。


自分が坐禅をするのは、「今」と「私」を一時的にでもよいから、取り戻すためであるのかもしれません。その上で行動をしたいと思います。


いろんなことに自覚的でありながら生きていければと思います。