Study: ジャコウアゲハとウマノスズクサ

植物園までのスロープを歩いていると、黒い毛虫が道を横断していました。よくみると、ジャコウアゲハの幼虫でした。おそらく蛹になるための場所(ブロックや壁の側面)を探していたのでしょう。他の誰かに踏まれないように、そっと花壇にうつしました。(手塚治虫の『火の鳥』で、主人公が小川に落ちたテントウムシを救って助けるシーンがあります)

植物園近くの階段の壁にはたくさんの抜け殻が張り付いていました。ジャコウアゲハは、姫路市の市蝶に制定されています。これは、姫路城の瓦紋が「揚羽蝶」であること、蛹はお菊さんの化身であるという江戸時代から姫路城に伝わる怪談『皿屋敷』があること、幼虫は寄主特性が高くウマノスズクサ類を食し、農産物を食害しないことなどから、市が制定に至ったとのことです。

ジャコウアゲハの幼虫は、ウマノスズクサ属の植物だけを食べます。ウマノスズクサは、つる性の多年草で、畔や川の土手などに生えます。葉は互生し、長さ3~7センチ。茎や葉は無毛です。地上部は、冬には枯れます。かつては民間療法として、出産の痛みを和らげるため、この属の植物が用いられたそうです。ウマノスズクサも、根を虫や蛇の解毒に、果実は解熱、せき止めに利用されました。(ただし、アリストロキア酸は人体に有害であるため生薬としての使用も減っているようです)

ウマノスズクサ属植物には、アリストロキア酸という毒性の強い物質があり、他の昆虫類は食べられません。ジャコウアゲハは、この物質に対する解毒酵素を持っているので平気なのです。そのうえ、産卵の刺激物質として利用しています。植物と昆虫が一対一の強い結びつきがあることを「寄主特異性が高い」と言います。長い進化の結果、築き上げられたものですが、それが不利になることもあります。この属の植物が絶滅すると、ジャコウアゲハも絶滅してしまうのです。また別の問題として外来種として日本に人為的に持ち込まれたホソオチョウとの間で餌資源をめぐる競合が起きているとの指摘もあるようです。

市内には、ジャコウアゲハの生息環境を整えたり、環境教育の教材に使用する支援団体があるそうです。ジャコウアゲハを増やすということは、食草のウマノスズクサの自生地を保護したり、ビオガーデンのごとく栽培する必要があります。

個人的に思うのが、黒いアゲハチョウというのは、見分けがつきにくいところが難点かもしれません。思いつくだけでも関東・関西で見られる黒いアゲハチョウには、ナガサキアゲハ、クロアゲハ、オナガアゲハ、ジャコウアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、モンキアゲハがいます。成虫の判別にはコツがあります。(ちなみに、アゲハモドキガ科にアゲハモドキというのもいますが、触覚がゲジゲジなので、わかると思います。)

ジャコウアゲハの成虫の特徴は、尾状突起が長い、胸・腹に赤・オレンジの模様がある。翅が細長い、平野部でよくみられる。成虫は雌雄の判別が容易で、雄の翅色はビロードのような光沢のある黒色ですが、雌は明るい褐色をしています。

オナガアゲハ、クロアゲハと見間違いやすいかもしれません。

オナガアゲハは、尾状突起が長い、胸部・腹部は黒く、模様がない。翅が細長い。クロアゲハよりも尾状突起が長い。山間部でよく見られる。

クロアゲハは、尾状突起が短く、胸・腹部は黒く、模様がない。オスは、後翅上部に白い紋がある。山間部・平野部でよく見られる。

播磨地方の街中で黒いアゲハチョウを見たら、胸部・腹部に模様がなければクロアゲハの可能性が高く、胸部・腹部に赤色の模様があればジャコウアゲハの可能性が高いと考えるといいでしょうか。林道などで見かけたら、クロアゲハか、オナガアゲハの可能性もあります。

寄主特異性が強い蝶類もなかなか試練かもしれません。通常河川敷などに生息するウマノスズクサが減ってしまったのはなぜなのかわかりませんが、もしかすればかつては田んぼの畦に生えていたのかもしれません。それらが除草剤などに耐性がないために、一緒に駆除されたかもしれません。見た目が似た雑草としてゴキヅルがありますが、こちらはしぶとくなかなか駆除できません。ウマノスズクサには、特有の異臭がするのもデメリットかもしれません。受粉のために糞や腐肉に似た匂いで小型のハエをおびき寄せます。特に綺麗な花が咲くわけでもなく、園芸植物としては好まれないパターンですね。アカデミックな匂いのする植物です。

 

 

 
 
 
 
 
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