Music: Wallflowers / Jinjer (2021)

 

Wallflowers [Analog]

Wallflowers [Analog]

  • アーティスト:Jinjer
  • Napalm
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ウクライナ・ドネツィクを拠点に活動するバンドJinjer。活動停止を余儀なくされました。インターネットを通じてTシャツを購入すると、その収益の一部が慈善団体に寄付されるようです。(以下のバンド公式Twitterの記事参照)

ウクライナのことは、連日ニュースになっているので、国のイメージも、遠い日本でもなんとなく持つ人も増えているかもしれません。ロシア西方に面した、黒海沿いの農業大国です。ウクライナの主要産業の1位は、国土東部の豊富な鉄鉱山と広大なドネツ炭田に支えられた鉱工業。次いで大きな産業は農業。農作物は同国主要輸出品目の1位となっており、輸出品全体の約50パーセントを占めます。ロシアの小麦の輸出量は年間約3500万トンで世界一と大きく、ウクライナも約2400万トンと、一昔前までは「欧州のパンかご」と呼ばれていたウクライナですが、現在では欧州のみならずアフリカやアジアにも農産物を輸出する「世界の食糧庫」となりつつあります。ちなみに、ロシアの郷土料理と思われがちな「ボルシチ」ですが、実はウクライナ発祥とされます。

爽やかなブルーと、イエローの二色の国旗は、「独立ウクライナの旗」と呼ばれ、ソ連邦時代からウクライナ独立のシンボルとして使われました。青は空を、黄は大地を染める小麦と農業を表しています。

しかし国内は大きく二部しており、ポーランドルーマニアなどEU側な欧米寄りの西側農村部と、経済圏の都市部ではあるものの民族的・宗教的にも古くからロシアに寄った東部・南部とで文化の違いがあると言われます。特にロシアと距離的にも近いクリミア半島を含む東側はロシア需要による工業化、近代化が進んでおり、それも影響してか、ロシアとの結びつきがことさらに強いとされています。そのロシアと国境で接しているのがドネツクがこのバンドの出身地です。あくまで勝手な想像ですが、イギリスでいえば、かつてのバーミンガムのような工業地帯でしょうか。メタルバンドと工業地帯というのは、親和性がありますね。金属加工業の無機質な機械音、労働者の閉塞感、社会情勢への不安感がヘヴィメタルを生み出したとも言われます。

Jinjerの音楽性はというと、プログレッシヴ・メタルコアのジャンルに入ると思います。初めて聴いた時は、ヴォーカルが男性と女性の二人いるのかと思いました。そうではなく、Tatiana "Tati" Shmailyukが一人で、クリーンヴォイスとグロウルヴォーカルを使い分けています。すごいテクニックです。Arch EnemyのAlissa White-Gluzのヴォイス統御の技術力の高さに匹敵すると思います。ライブパフォーマンスを見ると、クリーン/グロウルの切り替えの素早さと安定感という意味では唯一無比かもしれません。

バンド全体としての音像は、パンテラバイオハザードよりのヘヴィロックを下地にしつつ、Cryptopsyのごとくベースとドラムが超絶テクニカルな一面があります。ただし、テクニカル一辺倒ではないと自己否定するがごとく、ニルヴァーナサウンドガーデンあたりのグランジ、ガレージ・パンク・ロック的なラフな演奏のパートでオーディエンスと一体感を楽しむような一面もあり、初期ブラックサバスを思わせるスラッジ的なグルーヴ感、そしてクリーンヴォイス時に聴き取れる、東欧的などこか懐かしいオリエンタルな民族音楽風のメロディ、ラップ調のボーカルパートは、アメリカのヒップホップも思わせます。ところどころギターのフレーズがキング・クリムゾンの「Red」や「Thrak」あたりの不協和音型の金属音もスパイスのようにトッピングされています。同じく東欧モルドバ出身のInfected Rainと似たエネルギーの高さを感じさせます。

曲によってコンセプトを変えているようなところがあり、それは高い演奏技術に裏打ちされています。ヴォーカルの技術も高く、カリスマ性もあるので、クリーンヴォイスのパートをうまく演出した曲をシングル曲として出してもいいのではと思いました。EP「Micro」収録の「Teacher, Teacher!」やアルバム「King of Everything」の「Pisces」あたりの路線がこのバンドの代表曲になりそうです。

もし批判的なことを書くとすれば、なんでも詰め込みすぎて、やや曲の印象が残りにくくなっているところもありますが、それだけポテンシャルの高いバンドだという証拠でもあります。音楽活動が再開できるように、国の情勢が落ち着くことを祈るばかりです。

参考:

Wikipedia

東京都立図書館

日経ビジネス

 

 
 
 
 
 
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