Books: 松尾芭蕉を旅するー英語で読む名句の世界 / ピーター・J・マクミラン(2021)

 

「鎌倉殿の13人」で木曾義仲が出てきていました。巴御前との奮闘の様子、また息子・義高(清水冠者)の悲劇など、印象に残るシーンの多い人物でした。

その木曾義仲に想いを寄せたのが、松尾芭蕉です。生前は義仲寺の境内に無名庵という庵を結び、死後には義仲の墓である木曽塚の横に自らの亡骸を葬らせています。本書には、義仲に関する句が2つほど紹介・解説されています。

木曾の情雪や生ぬく春の草

The heart of YoshinakaーEarly spring sprouts piercing through the snow.

木曾に育ち平家を破って武名をとどろかせた木曾義仲の逆境に耐える気概のように、山国木曾の厳しい風土に生える春の草は雪の下から強く芽を出す。

日本人の言う、本当の強さのイメージとは、鋼鉄のような頑丈さではなく、新芽のような「しなやかさ」かもしれません。

義仲の寝覚の山か月悲し

It's the mountain where Yoshinaka woke and saw the moon on the battle nightーLooking up at her, the moon itsself appears sad.

あの燧山(ひうちやま)はかつて義仲が戦いに敗れた城跡だが、あの城に籠った義仲は夜半に目覚めてどんな思い出月を見たのだろう。その心を思うと今見える月にも哀愁が感じられる。

月悲しというのは、万物が義仲を鎮魂していることを擬人化していると、マクミラン氏は解釈しています。

義仲は無骨な侍として描かれることは多そうですし、おそらく実際もそうだったのだと思います。帝の前では弁えがなく、恥を晒したとも言われます。

しかし、巴御前を戦場から逃したシーンや、敵とは正々堂々と戦うスタンスなど、その潔さは、どこか日本人の琴線に触れる美学があります。