イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫) / ソルジェニーツィン


スターリン時代の強制収容所ラーゲリ)に入れられた囚人,イワン・デニーソヴィチ・シューホフの1日を描いた作品です.ソルジェニーツィンは,この作品の発表により世界的な名声を得て,1970年にはノーベル文学賞を受賞,1983年には宗教界のノーベル賞とも言えるテンプルトン賞受賞しました.
強制収容所の生活は過酷で厳寒でうまくやりぬかないとのたれ死にます.強制労働の中で描かれる巧く調達した本当は決して美味しくないはずの野菜汁(バランダー),粥,タバコ,ソーセージが,妙に美味しく見えてしまいます..そして,日中の粉雪,夜中の月,施設内の電球の明かり,暖房の入った医務室が変に温かく鮮やかに感じられてしまいます.

一日が,すこしも憂うつなところのない,ほとんど幸せとさえいえる一日がすぎ去ったのだ.
こんな日が,彼の刑期のはじめから終わりまでに,三千六百五十三日あった.閏年のために,三日のおまけがついたのだ・・・

とシューホフの一日は終わります.シューホフにとっては「すこしも憂うつなところのない,ほとんど幸せとさえいえる」日常は,僕には非日常に感じられました.日常というものが,いかに微妙な均衡の上になりたっているか.国家に,制度に守られている自分たちの生活も決してシューホフの一日と変らないくらいに,実は不確実なものなのかもしれないです.