難病飛行―頭は正常、体は異常。 / 蔭山武史 (2010年)

難病飛行―頭は正常、体は異常。


★先週の日曜日に里環境の会の代表と私の二人で、蔭山さん宅に伺いました。医療や倫理のことなどさまざまな実体験を聞くことができ、大変有意義な一日でした。


蔭山さんは、常に人工呼吸器を身に着けてしゃべることもできず、自由に動かせる体の部分も少なく、想像を絶する困難の中で生活されています。そうした状況でNPO法人もみの木の代表を務め、体験談を著書にし、社会をより良くしていこうと努力されているのが印象的でした。


蔭山さんは、5歳で全身の筋肉が徐々に衰えていく病気「筋ジストロフィー」と診断され、29歳で肺炎を患い、気管切開を行って、声が出にくくなります。31歳の夏、新たな治療(QOL)を求め徳島筋ジス病院に転院。現在は寝たきり生活を送っていますが、わずかな力で操作できる特殊なマウスを使い、パソコンを活用し、映画館やDVDで見た映画の内容と感想をブログに書き続けておられます。


今回私らと知り合いになったのは、里環境の会のブログを観てくださって、メールをいただいたのがきっかけです。


本書を読むと、夛田羅勝義 (たたら かつよし)先生という呼吸器の専門医との出会いが、蔭山さんの生活をよりよい方向に導いたそうです。夛田羅先生は、蔭山さん本人の意思をできるだけ尊重し、病院のベッドに縛り付けるのではなく、体力のつく食事させ、外出も勧められたそうです。


患者が自らの理想とする生き方、もしくは社会的にみて「人間らしい生活」ができるように患者に援助を与えることが必要であるという考え方を、「QOL(生活の質)を維持する、向上させる」と言います。


日本の医療はここ数十年で画期的に進んだと思われがちですが、必ずしもそうではなく、病気の種類によっては患者の生活の質(QOL)は低いままというケースはあるようです。


蔭山さんが理事を務める「NPO法人 もみの木」では、同病の患者のQOLを向上させることを目的とし、専門医を招いて講演会を主催したり、患者と家族の方々の情報交換会を開いたり、非侵襲的人工呼吸療(NPPV)という気管切開ではなく、マウス呼吸器という選択肢があることを広めたりと、さまざまな活動をされています。


本書は、蔭山さんの今までの体験談を綴ったもので、特殊なマウスを使ってPCでコツコツと1年くらいかけて書き上げたものです。最後ページに「だからこそ太く短く、一歩ずつ悔いのないように生きていきたい。」と書かれています。自分の境遇に絶望することなく、使命を持って精一杯のことをされている姿に強く心を打つものを感じました。