Books: スタン・ゲッツ 音楽を生きる / ドナルド・L・マギン

 

スタン・ゲッツ :音楽を生きる

スタン・ゲッツ :音楽を生きる

 

村上春樹にとってThe Jazzが、スタン・ゲッツであることは、ファンの間では有名な話です。スタンゲッツの音楽のことを叙情と悪魔と表現しています。

その美麗な精神の裏には避けがたく、残忍なデーモンがひっそりと潜んでいる。明と暗。光と闇。あなたは自由意志で、そのどちらかを選択することはできない。選ぶのはあなたではなく、彼らなのだ。その真の美とは、根源に残した音楽を耳にするたびに、できればそのことを思い出していただきたい。

鬱はスタンゲッツの人生において絶え間なく、苦痛に満ちた宿痾であったといわれるように、スタン本人は成功している時も、スランプの時も避けがたくネガティブな一面が顔を出します。アルコール依存症、ドラッグ依存症、DVと、私生活では多くのトラブルを抱えながら生きていました。その音楽からは想像ができないくらいに泥沼でした。

ロバート・ジョンソンが悪魔に魂を売った男と言われるように、スタンも悪魔に自分の何かを差し出すことの見返りとして神がかり的な演奏をさせてもらっていたのかと思えるほどです。

2番目の妻でスウェーデン人のモニカは、それまでスタンとは正反対の人生を送ってきました。彼女もスタンと出会って結婚したことは、「進路を妨げる障害物として私に神様がお与えになったのではないか」と語ったほどです。モニカは、懸命にスタンの前妻およびその間に3人の子どもたち前の家族の再編成を取り掛かります。その甲斐もあって、それぞれはかなり軌道修正されます。