Study:  The Ride That Took Explorers Farther.  New York Times. Intl. Weekly. August 8, 2021

タイトルは、「探査員をより遠くまで運んだ乗り物」

・1971年7月31日、アポロ15号の搭乗員デイヴ・スコットとジム・アーウィンは、人類で初めて月面で乗り物を操縦した人物となった。月面ドライブ中に、小さな穴で覆われた黒い溶岩石を拾い、飛行船に持ち帰った。地球に持ち帰り分析する価値があると考えた。

・しかし、探査車を停車させ、石を拾うことは予定にはなかった。そのため、スコットは言い訳を考えた。「乗車中、シートベルトに違和感があった」ということにした。そのため、その石は、「シートベルト岩(Seatbelt Rock)」と呼ばれ、アポロ15号の搭乗員が持ち帰った地質学サンプルのうち最も価値のある発見物のひとつとなった。この石は他のサンプルとは違い、探査車でドライブしたからこその発見であった。

・月面探査車案として、最終的にはクルマの形をしたバギーが勝ち残った。他には、ポゴ・スティック、オートバイなどもあったという。当時の月面探査車は、シャーシが剥き出しで、傘のようなアンテナを設置しており、針金スポーク車輪であったので、地球のクルマとは違った形であった。しかし、それでも、ボーイング社とジェネラル・モーターズが共同開発したことやアメリカ人の自動車への愛着心をくすぐったことにより注目を浴びた。

・宇宙船への積み込みと運搬の必要があったため、月面探査車には制限があった。折りたたみ式、耐久性がある、バッテリー駆動、重量は230 kg以下といった点だ。月面での温度差280℃に耐えられる必要もあった。

・月面で実際に操縦したスコット氏とアーウィン氏によれば、「まるで若い野生馬のように扱いにくく、時速10 kmで走行中でもハンドルを切ろうとすると、前輪が浮き上がったり、後輪がスリップしたりした」とのこと。しかし、それでも搭乗員の行動範囲をそれまでのアポロ計画に比べて遥かに広げたのは画期的なことであった。

・2021年5月には、ジェネラル・モーターズはロックヒード・マーティン(Lockheed Martin)と提携し、NASAの月面有人飛行アルテミス計画のための新型探査車(ローバー)を開発することを発表した。

・月面探査車のノウハウは、火星の無人探査車(マーズ・ローバー)1号機であるソジャーナ(Sojourner)に受け継がれた。マーズ・ローバーは、ホイールが6輪、柔軟性のあるフレームで構成されていた。

スミソニアン博物館のアポロ計画で使用された物品の収集に携わる学芸員ティーゼル・ミューア・ハーモニー(Teasel Muir-Harmony)博士は、月面での探査車は、人類の未知なるものへの好奇心を象徴しており、月で収集されるサンプルよりも、月面でクルマ(ルナ・ローバー)が走ることに大衆は注目するだろうと述べている。

 

キーワード

Apollo 15  アポロ15号
アポロ15号はアメリカ合衆国アポロ計画における4度目の月面着陸飛行である。アメリカの有人宇宙飛行は、これで8回連続で成功を収めた。また月面車を使用し、より長い期間月面に滞在して科学的探査に重点を置く、いわゆるJ計画が初めてこの飛行で行われた。(Wikipedia

Moon Car  月面車
月面車の製作はボーイングが担当し、1969年5月から開発が続けられた。5フィート×20インチ(1.5×0.5メートル)に折り畳むことが可能で、着陸船にはその状態で収納されている。乾燥重量は460ポンド(209キログラム)、飛行士と機器を搭載したときの重量は1,500ポンド(700キログラム)である。各車輪は電気モーターにより独立して駆動し、それぞれが4分の1馬力(200W)を発揮する。運転は両飛行士ともできることになっているが、実際には常に船長が運転する。最高速度は時速6から8マイル(10~12キロメートル)で、これにより初めて飛行士は着陸船から遠く離れた場所に移動し、科学実験のための十分な時間を持つことが可能になった。(Wikipedia

Seatbelt Rock シートベルト玄武岩(月玄武岩/サンプル番号15016番)
「シートベルト玄武岩」としてよく知られている。月のサンプル15016は、1971年に月のハドリーアペニン地域でアポロ15号のミッションにおいて発見され、収集された月のサンプルである。岩は0.923kg(2.03 lb)の小胞かんらん石玄武岩である。月面車を操縦したデイヴ・スコットが採集した。予定にはない行動であったため彼は、シートベルトを締め直すために停車したと言い訳をしたため、この名前が付けられた。(日本惑星科学学会

Genesis Rock ジェネシス・ロック(創世記の石/サンプル番号15415番)
2日目の目標地点はモンス・ハドレイ・デルタ(Mons Hadley Delta)と呼ばれる小山で、両名はそこでアペニン山脈周辺にあるクレーターで石を採集した。またこのとき彼らはアポロ計画で後に最も有名になる、サンプル番号15415番、通称「創世記の石(ジェネシス・ロック)」を発見した。アポロ15号の宇宙飛行士であるジェームズ・アーウィンとデイヴィッド・スコットが月から持ち帰った灰長石の地殻標本である。化学的な分析により、この石が形成されたのは太陽系の初期、数十億年前であることがわかっている。回収されたのは月のクレーターで、同種の石が転がる付近であった。(Wikipedia

Lockheed Martin ロッキード・マーティン
アメリカの軍用機・兵器・宇宙機器メーカー。1995年にマーチン・マリエッタ社と合併し、ロッキード・マーチンとなる。(Wikipedia

Mars Pathfinder マーズ・パスファインダー
アメリカ航空宇宙局NASAJPLディスカバリー計画の一環として行った火星探査計画、またはその探査機群の総称である。1996年12月4日に地球を発ち、7か月の後、1997年7月4日に火星に着陸した。ローバーはアメリカの女性公民権運動家ソジャーナ・トゥルースにちなみ「ソジャーナ」と命名された。着陸後には通信の中継器として使用された無人基地(着陸機)は「カール・セーガン記念基地」と名付けられた。(Wikipedia

Artemis Program  アルテミス計画
アメリカ合衆国政府が出資する有人宇宙飛行(月面着陸)計画である。2024年までに「最初の女性を、次の男性を」月面(特に南極付近)に着陸させることを目標としている。計画名と計画の詳細は2019年5月に発表された。なお、アルテミスはギリシア神話に登場する月の女神で、アポロ計画の由来となった太陽神アポロンとは双子とされる。(Wikipedia