Books: 荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟 / 荒木飛呂彦(2013)

 

荒木氏が考えるよい映画とは、サスペンス性のある映画です。そのサスペンス性の5つの条件とは、

1. 謎がある。

2. 主人公に感情移入できる。

3. 設定描写の妙がある。

4.ファンタジー性がある。

5. 泣ける。

を挙げています。映画をこんな風に見たことがなかったというのが、私の正直な感想です。原作(小説)を読まずに、映画を見てしまうと、何か罪悪感があります。いい映画を見た後には、原作を読みたくなります。

本書を読んで考えさせられるのは、「”リアリティ”とは、何か」です。撮影の技術が上がり、映像の質も上がり、自宅でも大画面で鑑賞が可能になることで、映画は「より迫力のある、リアルなものに近づいている」というのが、一般視聴者の認識です。

しかし、スピルバーグ監督の映画は、一つのシーンの流れに、アイディアを3つ、4つ盛り込むという神技により成り立っているということです。

例えば、「ジュラシック・パーク」の冒頭では、この妙技を象徴してシーンがあると言います。琥珀に閉じ込められた恐竜のDNAから現代に恐竜を蘇らせるというSFチックだけど現代の科学ではあり得そうなイントロ(起)、実際に生きた恐竜が見られるパークがあるという現実性(承)、管理者の人為的ミスで恐竜が保護檻から脱走してしまうというヒューマンエラー(転)、動物が恐竜らしきものに食べられてしまうという恐怖の幕開け(転)、しかしなかなか姿が見えないティラノサウルス(転)、パークを訪れた子どもや博士が襲われるかも知れないというハラハラ感(転)、子ども嫌いだった博士が子どもたちを救おうとする心変わり(転)と、たった3分の間に、映画に登場する人物と恐竜が、一気に展開します。全てにおいて矛盾なく、しかも急激な変化が起こっているのです。

観客は、知らず知らずにうちに、そのトリックにはまっていきます。シーンに引き込まれ、自分が主人公になったかのような錯覚に陥ります。それは、絶妙なカメラワークにより、一瞬先を予感させる手がかりだったり、逆に映画の主人公たちが気がつかない「モノ」を映すことで、観ている観客が声を出して教えてあげたくなるような臨場感。ハラハラさせる演出を巧みに駆使しているのです。

主人公の視点、客観的な視点、敵の視点、物語を創造した製作者の視点など、たくさんの要素がバランスよく、展開に違和感がないように組み込まれています。それを持ってして、「リアルな」映画だったと観客は感動するのです。映画は、小説のように補足の文章として長々語りができませんから、シーン中の人物やキャラの動作や表情で読み取らせないといけませんし、どこを撮るかというカメラワークによっても、リアリティの演出が変わってきます。実際、スピルバーグの映画は、作り込み過ぎの感があるのですが、「嘘っぽくなく、明日にも同じことが起こるかも知れない」と観客に思わせる妙技があるのです。そして、ただ怖かっただけという印象ではなく、作品としてのメッセージとして、人々の心に何か大切なことを伝えるメッセージも託しています。