Books: 荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 / 荒木飛呂彦(2011)

 

 

荒木先生は無類のホラー好きで、あの作風を見ると納得できるのですが、ヴィジュアル面はもちろん、精神的な意味でも、映画作品とまっすぐ向かい合っておられるのがわかります。

「かわいい子にはホラー映画を見せよ」のくだりにはこのように書かれています。

かわいいもの、美しいもの、幸せで輝いているものを好むのが人間です。でも世の中全てがそういう美しいもので満たされているわけではなく、むしろ美しくないもののほうが多かったりすることを、人は成長しながら学んでいきます。この世の中には醜いものや汚いものがあり、人間の中にも残酷なことをする人がいる。さらに自分も人を妬んだり虐げたりすることがあり、反対に人からそうされたりすることで、人間関係も含めた厳しい環境の中に放り込まれていくわけです。そのことによって、それまでは自分が一番と信じ込んでいられたのに、もっと優秀な相手と出会って無力感を味わったり、幸せな気分の頂点からスランプに陥ったり、あげくは何もしていないのに暴力を振るわれたりして、理想と現実との違いに苦しむことになります。

このくだりにとても共感できました。私もホラー映画が好きな時期があって、色々見ていました。思えば、思春期の時期に特に興味を持っていたと思います。ホラーやサスペンスもの、サイコホラーが好きでした。自分を慰めなくてすむような完璧な人間であれば、きっとこういったものには縁がないのでしょうけど。ニーチェの哲学のようです。

しかし、ホラーでもなんでも、そのうち感覚が麻痺して、さらに、血や殺戮といった残酷なものや恐怖を純粋に好み、「淫する人」になってしまう危険性もあります。この意味での芸術鑑賞を、現実世界にまで拡大することは許されません。美の世界は、魅力的なだけに人を狂わせることもあるのが厄介なところです。荒木先生が教示されるように、「冷徹な分析能力」を身につけたいものです。