意識とはなにか-を生成する脳 / 茂木健一郎

意識とはなにか (ちくま新書)
本書では,
1.私たちの心の中で<あるもの>が<あるもの>であること=クオリアが成立しているプロセス
2.クオリアを感じる<私>という存在と他者との関係性からの生成のプロセス
が議論となっている.
第8章の意識はどのように生まれるかの中で,
クオリアや<私>を隠蔽する心的態度,刺激(S)-反応(R)系の機能主義について述べられている.機能主義は,きわめて限定された範囲内で実際に応用可能であるのに対して,クオリアや<私>が<私>であることといった根源的な問題を背景とした,主観的体験の起源を問う「現象学的」アプローチは,今のところ実際的な問題への応用を見出せてないと言われる.

私たちの意識の中で,ある「同一性」が成り立っていることと,その「同一性」が置かれている文脈が柔軟に変化していることは深く関係している.あるクオリアが<私>の心の中でユニークに成り立っているからこそ,そのクオリアの置かれた文脈が経験を反映して柔軟に変化しうるのである.クオリアは,<あるもの>が<あるもの>であることを安定して維持しつつ,その<あるもの>が置かれる文脈を柔軟に変化させることを可能にする形式なのである.
茂木健一郎著「意識とはなにか-<私>を生成する脳」ちくま新書 p198より)