今回は少し渋めの芸術観賞となりました。漆は、ウルシ科のウルシノキ(漆の木)やブラックツリーから採取した樹液を加工した、ウルシオールを主成分とする天然樹脂塗料です。うるしの語源は「麗し(うるわし)」とも「潤し(うるおし)」ともいわれています。
内心、自分にはまだ早いかなと思いつつ観賞をしました。観ているうちに、この漆の感じ、しっとりとしていて、かつ滑らかで、高貴な感じは、漆にしか出せない質感なのではないかと思うようになりました。手で触れるかのように眼で撫でるように見ていると、自然に心も潤ってくるような気持ちになります。写真や図録では味わえないものがあります。
柴田是真の位置づけとして、素人目には、伊藤若冲よりは庶民っぽく、河鍋暁斎よりは高貴な印象を受けました。どの作品にも庶民的な心意気が入っているけれど、気品に溢れています。日常生活を土台にした現実味のある芸術だと思いました。伊藤若冲のような宗教的な崇高さはあまり感じませんでした。
柴田是真(1807〜1891)は、幕末から明治期に活躍した漆芸家であり画家です。まず絵画の分野で才能を開花させましたが、漆工においても、各種変塗の開発・復興を行ったり、江戸っ子好みの機知に富むデザインが人気を呼び、江戸随一の蒔絵師の地位を獲得します。さらに漆工、絵画の双方に才を発揮した是真は、和紙に色漆を用いて絵を描く「漆絵」を発展させ、掛軸や画帖、屏風、額など多くの優れた作品を残しました。明治23年(1890)にはついに帝室技芸員にも任命されました。本展では、アメリカ・テキサス州サンアントニオ在住のキャサリン&トーマス・エドソン夫妻が収集した是真の漆工と絵画約70点が初めて里帰りし、日本に所蔵される優品約20点とあわせ、計約90点の作品を通して是真芸術の魅力が紹介されています。(承天閣美術館HP参照)
十牛の庭
相国寺の回廊には「十牛図」が展示してあります。自分の立ち位置は、つねに「尋牛(じんぎゅう)」なのかと思うことがあります。牛を捜そうと志すけれども、悟りを探すがどこにいるかわからず途方にくれています。
柴田是真「松鶴に鵲文正月揃」(盆・部分)
柴田是真「漆絵画帖」
京都御苑の東側の森
梨木神社との間。