環境倫理学/鬼頭・福永編 (2010年)

環境倫理学


★目次
主要目次
序章 環境倫理の現在――二項対立図式を超えて(鬼頭秀一)
第I部 環境倫理が語れること
1 人間・自然――「自然を守る」とはなにを守ることか(森岡正博
2 自然・人為――都市と人工物の倫理(吉永明弘)
3 生命・殺生――肉食の倫理,菜食の論理(白水士郎)
4 公害・正義――「環境」から切り捨てられたもの/者(丸山徳次)
5 責任・未来――世代間倫理の行方(蔵田伸雄)
6 精神・豊かさ――生きものと人がともに育む豊かさ(福永真弓)


第II部 環境倫理のまなざしと現場
7 「外来対在来」を問う――地域社会のなかの外来種(立澤史郎)
8 「持続可能性」を問う――「持続可能な」野生動物保護管理の政治と倫理(安田章人)
9 「文化の対立」を問う――捕鯨問題の「二項対立」を超えて(佐久間淳子)
10 「自然の再生」を問う――環境倫理歴史認識(瀬戸口明久)
11 「地球に優しい」を問う――自然エネルギーと自然「保護」の隘路(丸山康司)
Box1 野生復帰を問う−野生復帰において人はどこまで操作可能か(池田 啓)
Box2 政策からこぼれ落ちるローカル知――ウチダザリガニと人間の環境問題(二宮咲子) 


第III部 環境倫理から生まれる政策 
12 家庭から社会へ――持続可能な社会に続く道を地球温暖化問題から考える(井上有一)
13 知識から知慧へ――土着的知識と科学的知識をつなぐレジデント型研究機関(佐藤 哲)
14 政策から政/祭へ――熟議型市民政治とローカルな共的管理の対立を乗り越えるために(富田涼都)
15 安全から危険へ――生態リスク管理予防原則をめぐって(松田裕之)
16 制御から管理へ――包括的ウェルネスの思想(桑子敏雄)
終章 恵みも禍も――豊かに生きるための環境倫理(鬼頭秀一)


環境倫理談話会の勉強会として、本書「環境倫理学」の輪読会がスタートしました。これはskypeを使ってやっています。第1回目は、6月27日に「第3章 生命・殺生―肉食の倫理、菜食の倫理(白水士郎)」をやりました。担当は自分でした。


そこで出た意見の一部を列挙します。



環境倫理(学)とは、「すべし」をまわりに教えることではなく、「すべし」の根拠を問いなおすもの、というのはその通りだと思う。


・エコロジカルフットプリントは、見積もりがアバウトすぎるという批判もある。環境の数字ってアバウトすぎるのでは。


・倫理もまた生態系の生き物のように変化していく、という考え方は興味深い。


・肉食も単純に否定できるものではない。著者が指摘するように、被差別部落の多い関西においては、そこの歴史と文化の蔑視を助長しかねない。文脈の中の倫理の役割についても考えるべき、というのはいい指摘だと思う。


・感情をおさえて議論をするというが、口蹄疫の牛処分のシーンなどかわいそうだと感じる。感情をコミュニケートする環境がむしろ乏しいのではないか。もっと感情が流れるような場が大事にされるほうがいいのでは。国家の規制に頼るのではなく。



などです。


それにしても、今回の口蹄疫の流行に関連して、さまざまな問題が露呈しているのがわかりました。


特に獣医師の役目については、前回環境倫理談話会で獣医学部の学生さんが話してくれたことを思い出しました。さらに、JissenというMLでは、行政獣医師の待遇が、決して良くないことが指摘されていました。


そのMLでは、今回の状況に対して、

1.国の食肉供給の根幹を支える大動物診療獣医師の待遇を根本的に見直し、十分な人材を確保できるようにする。


2.諸外国からの様々な伝染病を防ぎ、国内の牧場をモニターして、進入した時点ですぐに撲滅できるようにする。



という意見が出ているのを知りました。


雇用システム、政府や行政の政策などの社会問題も、広い意味では環境倫理(学)の範疇に入ります。


このように、肉食の問題、口蹄疫の問題をとってみても、哲学的なところから、生態学環境学などの専門的な話、仕事、雇用や生活などの現実的な話、さらには政府・行政の政策的な話まで、いろいろな観点から議論を行う必要があります。


環境倫理談話会では、学際性の確保、さまざまな立場からの多様な意見を知るためにも、できる限り多くの方に参加してもらいたいと思っています。


次回のスカイプ談話会では、『環境倫理学』の序章をやります。また、大阪自然環境保全協会事務所での体験談を話してもらう企画もあります。なんだかんだで盛り上がっているような気がします。