ー村上さんが特定の小説家の翻訳をしようと思われる判断基準は、どういうところにあるのでしょうか。そして翻訳を続けられているのはなぜでしょうか。
村上:ひとつめはなんといってもリスペクトですね。文学にはリスペクトの感情というものが大事です。
ふたつめは、翻訳することによって、作家としての勉強をするんだということ。昔の人が写本写経するみたいに、英語を一語一語日本語に移しかえて、言葉の使いかた、文章のリズムのとりかた、どんな風に小説を書くかということを、そこから学びとる。
三つ目は言語的な問題です。僕が小説の中で何かをパラフレーズにする、つまり置き換えることをどのようにやっているかは1日目にもお話ししましたけど、翻訳は言語対言語でその置き換えをやっているわけです。