脳のなかの文学 / 茂木健一郎

 

脳のなかの文学 (文春文庫)

脳のなかの文学 (文春文庫)

 

愛することで、弱さが顕れるとしても

愛している対象は、自分の夢の在処や発展の可能性を指していると同時に、欠点も示している。

自分が愛している対象を批判されるという経験は、根本的に不毛である。そんなことを言われてもなあ、と思うだけであって、大抵の場合、愛し続けることに変わりはない。何を言われたところで、自分がその対象を愛している理由にまで降りてこない批評は、結局は上滑りするだけで魂の芯をとらえない。

難解な哲学用語を振り回し、脱構築だのポストモダンなどと眩惑する批評も、もしそこに愛があるならば救われよう。もし、弱みを見せまい、言質をとられまいと立ち回るだけならば、そこにあるのは魂の荒野である。