Books: Steel Ball Run / 荒木飛呂彦

 

ジョジョの奇妙な冒険は、第6部「オーシャンストーン」で完結しました。第7部は、ほぼ0からのスタートです。ただし、メインのキャラは、どこかで今までのストーリーに繋がりそうな因縁であったり、確執、過去の記憶を作り上げていきます。

舞台は西部劇の時代。アメリカが東部から西部へ開拓し切り、蒸気機関鉄道が横断しました。その逆ルートを、乗馬で大々的にレースします。

掲載は、週刊少年ジャンプ(WJ)ではなく、ウルトラジャンプ(UJ)で行われました。対象年齢が上がったことから、倫理的にセンシティブな描写やテーマにも踏み込んでおり、「大人になった」読者には読みどころが増えたかも知れません。

アメリカらしく、参加者も多様で、勝者を讃える文化が描かれています。道なき荒野を駆け抜けていくところも、フロンティア精神が息づいています。各選手には、様々な不幸な境遇があったり、どうしても果たしたい夢があったり、それぞれの思いを持ってレースに参加し、主催者らも、何かの思いがあり、運営をしています。全ての登場人物が、色んな意味で「ハングリー」です。

ルールに則った上で、一番早くゴールについたものが勝ちというとてもシンプルなレースです。国内からでも海外からでも参加可能です。一方で、新約聖書からも影響を受けた「聖人の遺体」の部位を一つずつ収集していく裏の目的もあります。

利害が交錯し、主催者、参加者を巻き込んだ複雑なストーリーが展開されます。しかし、主人公のジョニー・ジョースターは、最終的にはどちらも得ることはできませんでした。ただし、参加者も主催者も、大統領も、2つ同時に得た者はいませんでした。むしろ、色んな物を失いました。ただし、当初の参加の目的を、結果的に果たせた者はいました。参加の動機が、より純粋な想いの人間ほど、最後までやり抜けるストーリー展開であったとも言えます。

荒木氏が、鉄板の展開という「主人公が右肩上がりに成長していくストーリー」です。ジョニー・ジョースターとジャイロ・ツェッペリンの前には、様々な敵が現れ、何度も窮地に追い込まれていきますが、その修羅場を乗り越えるごとに強くなっていきます。自分の過去との闘いです。読者も共に成長していきます。

本作の最大の敵キャラは、ヴァレンタイン大統領です。しかし、彼の国を思う心はとても強く、その点において、実は彼が言っている方が正しい道であり、現実の世界の指導者たちの本音ではないかと思います。ただし、彼はその「正義」のために弱者を犠牲にしている、その部分が、主人公からも読者から見ても絶対に許せない「悪」なのです。

DIOも、本作でも絶妙なスパイスとして展開に味わいを付加しています。不幸な生い立ちのため、非情な精神でのしあがっていこうとするのは他の作品と共通しています。彼は自分の不幸な生い立ちに復讐していると言えます。どこまで許されるのか、読者を試しているような存在です。とても深淵な存在です。人間誰しもが抱えているような醜い感情を代弁している悪の権化というのは、読者はカタルシスを得ることができ、第一部ではDIOには熱狂的なファンもいたようです。

ヴァレンタイン大統領の卑劣な手口とDIOの冷徹さに、ある程度カタルシスを感じながらも、どこかで、正義と友情のために孤独に闘うヒーロー・ジョニー・ジョースターとジャイロ・ツェッペリに最後は勝ち抜いてほしいと願いながらページをめくっていると思います。

 
 
 
 
 
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