Books: Burrn! Presents 「Perpetual Vol. 3」 / 前田岳彦編集(2022年)

 

Dir En Greyの新作「Phalaris」が、とても素晴らしいので、改めてDir En Greyを聴き直すようになりました。ヘヴィメタル専門誌として有名なBurrn!の別冊特集号として本書が出たので購入しました。Burrn!編集者の前田岳彦氏が主体となり、編集・記事執筆をされています。

Dir En Greyほど自分の感性に合うバンドはそんなにはいない」と語る前田岳彦氏。Dirとの出会いは、「Loud Park 06」のライヴパフォーマンスの時くらいからで、その音楽と世界観に衝撃を受けたのは、アルバム「UROBOROS」(2008年)収録の「Vinushka」を聴き終えた時だったと回顧しています。


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私は、「I'll」(1998年)、「アクロの丘」「ゆらめき」「残-ZAN-」(1999年)からで、当時、黒夢が好きだったので、清春に近いヴォーカルで、メタル寄りの音を出すバンドを求めていたら、Dirが結構ストライクだったのでよく聴いていました。その後、何枚かアルバムは聴きましたが、少し離れてしまっていました。

Twitterで前田岳彦氏がDirのことを何度か言及されていて、その影響で私もSpotifyなんかで聴き直しているうちに、やっぱりDirいいなぁと思い始めました。

80年代〜90年代初頭以降、ロック/メタルの音楽シーンは目まぐるしく変化し、「”メタル”という括りの中で音楽性の幅が広がった」というのはまさにその通りで、メタルの概念が広くなり、ヘヴィでエッジの聴いたリフを主体とした音楽を奏でるバンドをメタル・バンドと呼ぶなら、その範疇に入るバンドはかなり増えました。

そして、歌い方のバリエーションが爆発的に増えたように思います。デス・ヴォイスも、メタルバンドに限らず、一般的なテクニックのひとつとして広く取り入れられるようになったように思います。「デス・ヴォイスを使う」=「デスメタルバンド」という単純な括りは通用しなくなりました。デス・ヴォイス、グロウルにもバリエーションがありヴォーカリストによってトーンが違います。逆に、デスメタルが、クリーンヴォイスの効果的に使うことも増えており、バンドの音楽性とその魅力を増すような工夫をするバンドも増えています。

一方で、ファルセット(裏声的な歌唱法)は、日本のヴィジュアル系バンド特有の文化のように思います。中性的なルックスもさることながら、女性的とも言える、か細く、高い声が、独特の世界観を構築しています。海外のメタルはマッチョな男性的なイメージですが、日本のヴィジュアル系は中性的です。もちろん、ルックス面では、モトリー・クルーあたりの80年代メタルからの影響もあるでしょうけど。

Dirの場合、多重人格とも言えるほどに、1曲のうちで様々な声が使われています。特に、「Phalaris」では、今までで最も声のバリエーションが多いかもしれません。「コード、1コも判らない」と語るヴォーカルの京。直感を信じて曲を演っていると云います。

日本では、起承転結のあるドラマチックな展開のメタルの曲を「様式美」と呼んでいますが、Dirの場合、様式美など構造的なものをことごとく破壊した上で、独自の世界観を築き上げているように思います。バンドメンバーが思い思いにジャム・セッション的に演奏しているようにも聴こえますが、統一感はあります。聴かせるところは聴かせ、突如として怒涛の畳み掛けが支配するパートもあり、非常に有機的です。得体の知れない怪物が悶えているような、同時に、とても繊細でかつ熱い情念を抱えた人間の内面を見ているかのような気持ちになります。しかし、なぜか聴いていて、疲れないというのは、不思議な魔力です。

こういう音楽を創る人、聴く人というのは、実は繊細な人たちなのかも知れません。「Perpetual」(永続的、変化のない)に、語り継がれるバンドですが、その内部には、「Evanescent」(刹那的、変化のある)を内包しているのかも知れません。

 


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