Books: 彫 : だんじり彫刻の美 : 上地車彫刻画題考 / 兵庫地車研究会(2000)

iss.ndl.go.jp

播磨の屋台彫刻を調べる際に、狭間や露盤の題材を知らなければなりません。題目は多岐に渡り、日本史や文学、さらには三国志にあまり詳しくない私にとっては勉強を強いられる作業でもあります。

ただし、地車、山車彫刻は、世界に認められた絵画における浮世絵に匹敵するだけのものがあると考える研究家もいるほどで、そこに屋台彫刻も入るとするなら、祭礼時に出される「賑やかし」の地車、山車、屋台などの芸術作品は、各地域の文化として研究したり、誇りを持つだけの価値はありそうです。

播磨の屋台彫刻といえば、粕谷宗関氏が有名でいくつかの写真集を出されておられます。屋台彫刻を研究した先人の方々は、おそらくだんじりの彫刻についても造詣が深かったと思われます。屋台彫刻を知るには、摂津・河内・泉州(大阪や神戸)のだんじりを知らなければなりません。

だんじりと言えば、大阪の泉州岸和田が有名です。ちなみに、地車だんじり)には、大きく分けて、「下だんじり」と「上だんじり」があります。

『岸和田型』地車のことを「下だんじり(下地車)」、それ以外の形の地車を「上だんじり(上地車)」と呼びます。 上地車は、様々な観点から細かく分類すれば20種類以上にも別れ多種多様であるのに対し、下地車は岸和田型一つのみを指します。

この呼び名は、昭和40年代から地車研究家の間で呼び交わされてきた呼称で、泉大津市泉北郡忠岡町の境界のあたる『大津川』の北と南で、曳行されている地車の形態が異なっていたことに由来しています。

形態的な見分けとしては、上地車と呼ばれる地車には、張采棒(担い棒、肩背棒)などと呼ばれる囲いが付いているのに対し、下地車と呼ばれる『岸和田型』地車には付いていません。

本書は、上だんじりでも特に摂津(神戸)の彫刻について調査したものです。播州の屋台彫刻との違いは、播州の屋台は比較的新調のペースが早く、狭間や露盤も刷新されるのもあり、氏子の要望などにより、題目がその地区にゆかりのあるものが選ばれているところです。従って、かつては多かったと考えられる中国もの、例えば、平成・令和では、三国志関係の彫刻が播州では新たに創作される傾向がほとんどないように思います。

昭和時代の名工が創作した彫刻を見たい場合、その地区の屋台蔵か公民館に保管されているものを特別に見させてもらうか、先代屋台を購入した地区に行くかなどしなければなりません。

それに対して、新調のスパンの長い「だんじり」では、中国ものや有名な彫り師のものが現役だんじりでも見られる点です。

あと、先のブログ記事にも書きましたが、秀吉の出世物語を題目とした彫刻も上地車ではそれなりの数があるということです。

しかし、多くの題目に関して、共通しているので、彫り師の解釈の違いや表現の違いを見比べて楽しむことはできます。