不満だらけだ

昨日のゼミでは,不満が残った.
「科学とは何か」保全生物学の役割」といった話題に関する議論には釈然としなかった.科学とは何かと考えた場合,客観性,再現可能性,定量化,観察,因果律といったキーワードは出てくるが,それぞれの言葉自体の意味が問いたくなった.客観性とは何か?,主観と客観の区別はどこでつけるのか?,再現可能でない理論は,科学でないのか?,定量化できない現象は科学では扱えないのか?科学では,観察不可能な物体は扱えるのか,それとも,扱えないのか?原因と結果は,そう簡単に決定づけられるのかなど.
先生は,「科学(サイエンス)とは,物事を理解する手続きそのもの」だと述べられていた.それはそうだと思うけど,あまりに大雑把過ぎはしないかと思った.
僕が発言した「反証可能であるものが科学的命題であり,そうではないものは非科学である」というポパーの演繹主義的見かたは,どのように議論されるだろうか.うまく説明できなかったせいもあるが,流された.
(以下,内井惣一著「科学哲学入門」参照)
それから,科学を考えるには,実在論反実在論かの議論も必須だと思われる.
実在論的な定義としては,
「われわれをとりかこむ自然界に生起するもろもろの現象ーただし主として無生物に関するものー奥に存在する法則を,観察事実に拠りどころを求めつつ追究すること」
反実在論的な定義としては,
「科学が発見した物の実態あるいは法則は,人間と自然との共同作品である.科学とは,(1)再現可能な現象を,(2)自然法則から数量化して抜き出し,(3)それを統計的に究明していくという営みなのである」
それら相反する二つの定義の違いは,「科学理論の目的は何であるべきか」という規範的問題だと言われている.科学的営みや科学理論が事実示す特徴をいかに解釈すべきかということが,二つの哲学的立場の争点である.目的に関する意見の違いは価値判断の違いなのである.
ここからは僕の解釈だが,人それぞれ「科学とは何か?」と聞かれれば,その裏には,「科学とはどうあるべきか?」という問いが隠れている.そして,この質問に答える場合,「科学とはこうあるべきだ」という個人の倫理的価値に裏付けられた回答が示されることになる.
そして,保全生物学とは科学であることを認めるなら,保全生物学とは何か?」と聞かれれば,保全生物学とはこうあるべき」だということを問われていることになる.
僕は,かつてに日記で,保全生物学とは,「生態学+倫理」だと書いた.今から思えば,「+」という表現が少し甘かったと感じられるが,個人の倫理観に裏付けられた保全生物学を示す必要があるという意味で解釈されたい.そして,世の中全体として,保全生物学を見るなら,人々の倫理観も勉強しなければならないだろう.だから,僕の主張は,間違ったものではないと自分で思っている.

科学哲学入門―科学の方法・科学の目的 (Sekaishiso seminar)

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