幸せはすべて脳の中にある / 酒井雄哉・茂木健一郎(2010年)

幸せはすべて脳の中にある (朝日新書)


★目次
第1章 生きる力ってなんですか―千日回峰行の力
第2章 縁ってなんですか―セレンディピティを生かすには
第3章 人はなぜ生きるんですか―生きる道はどうすれば見つかるか
第4章 心はどこにあるのですか―歩くことと、息をすること
第5章 仏が見えるのはどんなときですか―天才と魔境のあいだ
第6章 幸せってなんですか―選べる自由があるから幸せ、ではない


★本書は、千日回峰行を二度も満行している天台宗大阿闍梨酒井雄哉さんと、脳科学者の茂木健一郎さんの対話の記録です。全部で6章立てになっており、章ごとの最後に茂木さんの視点として、所感が挿入されています。


その中でも「縁とセレンディピティを逃さないコツ」の文章がとても納得しました。セレンディピティというのは、思いもよらぬ偶然から、自分の人生を良い方向に変えるような出来事に出会うことです。もともとはホラス・ウォルポールという作家が考案した言葉ですが、彼はこれを一つの能力として捉えていました。脳科学的にも「セレンディピティ」の考え方は、大変興味深いと言われており、「オープン・システム」である脳は、外界とさまざまな情報をやり取りすることで機能しています。茂木さんの解釈によれば、セレンディピティを育むためには、「行動」、「気付き」、「受容」というサイクルを辛抱強く繰り返す必要があるというのです。すなわち、習慣を自分のものにすることで、「縁」を引き寄せることができるだろうということです。


また、「師について学ぶ」という節では、人間関係を通して学ぶことの重要性が書かれています。究極的には、一人のすぐれた師に出会うことが、人生におけるその人の「伸びしろ」の大小に関わってくるようです。ミラーニューロンの研究でも示唆されているように、人間の脳は相手の人格から多くの情報を受け取る性質を持っているからです。生身の人間が目の前にいることで、初めて「本気」になることができるというのです。インターネットと大学の違いは、よき師との出会いを提供するかどうかの違いだけかもしれないですね。


このように考えると、人間が倫理観を身につけるためには、心を開いた状態にし、かつ、よき師と出会うことが、一番定着率が高いような気がします。しかし、よき師でなくとも、よき友でもいいのではと思います。よき友との関係の中には、セレンディピティが溢れていることをしばしば実感します。お互いに刺激をし合い、相手の気づいていないような情報を与え合う、そして、お互いを受容しあう。そのような関係を築くことができれば、お互いの人生はそれぞれによい方向に進むのかもしれません。このような相互関係を、「対話」と呼んでも差し支えはないでしょうか。