ベナレス−生と死の聖地

NHKスペシャル アジア古都物語―ベナレス 生と死の聖地 (NHKスペシャルアジア古都物語)


★僕が最も好きな国はインドです。最も嫌いな国もインドです。愛憎渦巻いています。特に、ヴァラナシ(ベナレス)、コルカタカルカッタ)の街は象徴的です。でも、他の国には絶対にないものがあるのは感じました。ただ、うまくまだ表現できません。というのも、インドは僕の中で現在進行形だからです。度々新たな解釈が自然と生じてきます。もしインドを行った事のない自分を客観的に見れたとしたら、そんな自分を哀れんだだろうと思います。インドは世界中の人々の学校かもしれません。「汝、自らの小ささを知るべし」と思いました。


なぜか自分はインドが「遅れた」国だとは思えません。西洋文明のモノサシでは測れないような存在であるように思います。確かに、ホームレスや孤児も多く、疫病も流行しやすく、食べ物も十分にない、教育も十分に行き届いていないといったネガティヴな面が目立ちます。平和かといえばそうでもない。宗教の対立、階級制度による差別、政府の汚職、観光客を狙った詐欺もあります。


しかし、日本だって輸入を一端すべてストップさせてしまえば、経済は成り立たなくなります。インドに足を踏み入れてみると、自分たちの国が実は危うい土台の上でなんとかバランスをとって成り立っていることを忘れてしまっていることに気がつかさせられるのです。


日常、自分たちの持ち合わせている倫理観、道徳観、正義感も、社会の底(大前提)が抜けてしまえば、がらりと変わってしまうように思います。


生きているということに対する姿勢、いつかは死んでしまうということに対する姿勢も、変わるのではないでしょうか。


本書にはあるインド人の言葉が引用されています。

「この景色は美しいだけでなく、輝いています。果てしなく続く空が眼前にひろがっています。そしてここからは、生きることと死ぬこと、その両方を目にすることができます。見てください。こちらの街では、まさに今、幾つかの建物が建てられようとしています。新しい人生の物語が語られようとしているのです。一方、こちらでは、まさに今、誰かが荼毘に付されようとしています。一つの人生の物語が終わりを告げようとしているのです。この街は人間が必ず死ぬということを教えてくれます。―欲望を追い求めてばかり生きると、死ぬ存在であることを忘れてしまいます。中には私たちのことを世捨て人と言う人もいますが、私は欲望を捨てることで、生と死、その中間の道を進みたいと考えているのです」



ゆえに、ぼくは「死」に対して真摯に向かい合っている人々が住むインドを決して「遅れた」国だとは思えないのです。