Study: Refining The Method To Deflect Asteroids / New York Times. Intl. Weekly. September 26, 2021

タイトルは、「小惑星の軌道を変更するための技術精度の向上」

小惑星ベンヌ(Bennu)が2182年に地球に衝突する可能性が僅かにある。問題は、ベンヌをはじめ小惑星の衝突をいかにして回避するかである。

・ここ20年ほどは、特殊な銃器で発射体を何度も衝突させて、小惑星の軌道を変えたり、粉砕するというアイディアが主流であった。小惑星が高速の衝撃にどのように反応するかの解明に注力してきた。2021年8月に行われた国際隕石の学会では、対象の小惑星の質と何度にわたって発射体を衝突させるかにより、小惑星の軌道を変更できるかどうかに影響することが提案された。

・最新の研究に基づいた技術的アイディアは、対象の小惑星よりもはるかに小さな塊を衝突させることで軌道を変えるというものである。力学的に進路を変更させる方法は、現在のところ妥当で実現可能な技術であると考えられる。

・この数年間で、研究者らは32個の隕石を収集している。ほとんどが個人ディーラーから購入しているのだが、250 gあたり900ドル(約10万円)の高値で取引される。それらの半分は、炭素質コンドライト(carbonaceous chondrites)である。それ以外は、普通コンドライドである。

NASAでは、これら2種の隕石に対して毎秒6 kmの速度の被写体を衝突させる実験が行われた。目的は小惑星の進路を変えさせる衝撃の程度と粉砕する衝撃の程度の境界線を見極めることである。

・実験の結果、炭素質コンドライトは、普通コンドライトの6分の1のモーメント(運動量)で粉砕できることがわかった。このことは、炭素質を多く含む小惑星の軌道を変更させるには、より小さな衝撃を数回にわたって与える必要があることを示唆している。なお、ベンヌは、炭素質コンドライトであることがわかっている。

・2022年には、NASAの「DART(二重小惑星方向転換)ミッション」が、地球近傍の小惑星を周回する直径170mの小惑星ディモルフォス(Dimorphos)に探査機を衝突させて、その軌道を変えることを目指している。

 

キーワード

The asteroid Bennu 小惑星ベンヌ
コマのような形をした岩だらけの小惑星ベンヌは、何億年もの間、ほぼひとりぼっちで太陽の周りを回ってきた。直径約500mのベンヌが地球に差し迫った脅威を与えることはない。だが数百年後には、地球に衝突する可能性がわずかにある。
8月10日付けで学術誌「Icarus」に掲載された論文で、科学者たちはまず米航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「オシリス・レックス」のデータを用いてベンヌの軌道を正確に計算した。さらに、現在から西暦2300年までについて、地球に衝突する危険性を分析した結果、その確率は従来の推定よりもわずかに高い1750分の1(0.057%)だとわかった。(Yahoo

carbonaceous chondrite 炭素質コンドライト
石質隕石のうち、有機物などさまざまな化合物の形で炭素原子を含むコンドライトを指す。化学組成や酸素同位体組成に基づき、CI, CM, CO, CV, CR, CK, CHに分類される。コンドリュールのほかに、太陽系初期の高温凝縮物である、高アルミニウムカルシウム含有物(CAI: calcium-aluminium-rich inclusion)が含まれている。CAIの年代はコンドリュールよりも古くアエンデ隕石中では45.67億年を示すものが発見されている。炭素質コンドライトの中には、CI、CMなど水質変成を経験しているものがある。これらは集積時に氷が含まれていて、母天体中で変成作用を受けたと考えられる。
炭素質コンドライトの反射スペクトルに対応しているのは、C型のスペクトル型をもつ小惑星で、小惑星帯の外側に主に分布している。クローニン(J. Cronin)らは1997年、CMコンドライトのマーチソン隕石中のアミノ酸の分析から、イソバリンなど一部のアミノ酸で、左手型(L型)のアミノ酸が右手型(D型)よりも過剰であることを発見した。地球の生物のアミノ酸はすべて左手型であるため、地球生命のアミノ酸の地球外起源説の大きな根拠になっている。(天文学辞典

ordinary chondrite 普通コンドライト
岩石を主成分とする隕石(石質隕石)の中で、ケイ酸塩の球粒組織であるコンドリュールを多く含み、溶融を経験せず、岩石質と金属質が分かれていないものの総称。難揮発性元素に富むCAI(高アルミニウムカルシウム含有物)、金属鉄、硫化鉄などを含む。粒子の間隙は数ミクロン以下の微粒子で埋められていて、マトリクスと呼ばれる。コンドライトは、組成から、エンスタタイトコンドライト、普通コンドライト、炭素質コンドライトに分類される。この順に鉄の総量に占める酸化鉄の割合が増えるため、還元的環境から酸化的環境までの違いを表していると考えられる。酸化鉄の量や酸素同位体比により、エンスタタイトコンドライトはさらに、EH, ELに分類され、普通コンドライトはH, L, LLに、炭素質コンドライトは、CI, CM, CO, CV, CR, CK, CHに分類される。いずれにもあてはまらない、Kコンドライト、Rコンドライトというグループも提唱されている。地球に落下する隕石の8割以上がコンドライトで、そのうち大部分が普通コンドライトである。そのため、地球型惑星の原材料物質として、平均的なコンドライト組成の物質を考えることが多い。(天文学辞典