Books: ヘーゲル:精神現象学 / 斎藤幸平(2023)

 

ヘーゲルは、内なる世界に閉じこもるという選択肢を、「美しいたましい」と呼びました。ヘーゲルは、良心を二つに分けました。一つ目は、勇気をもって「行為する意識(良心)」、もう一方は、「評価する意識(良心)」です。行為する意識は、自分の義務だと思うことを、自分の良心に従って実行に移します。それに対して、評価する意識は、他者の行為を吟味して批評することこそが大切だと考えます。人間とは、「行為する意識(良心)」と「評価する意識(良心)」のせめぎ合いと考えられます。行為する意識は、相手の主張を深刻に受け取り、そのうえで、自分の一面性を反省し、「私が悪である」と告白します。自分の立場が普遍的ではないことを認めて相手に歩み寄り、相手(評価する意識)にも同じ態度を期待するわけです。しかし、評価する意識には慈悲の心があります。すなわち、「赦し」です。自分の行為も「偽善」だったと認め反省し、行為するー完璧さを追求していた自分の立場を捨てるわけです。

行為する意識(良心)」と「評価する意識(良心)」の相互承認の関係が成り立つことになります。相手の自立性を否定しつつも、自己批判によって相手に自由を与え返す。「告白」と「赦し」という言葉の力によって実現します。